香港に移ってきた2007年。
当時、美味しいコーヒーが見つから
なかった。
2007年香港に居住を移す前、
ぼくは東ティモールでコーヒー事業
に従事していた。
コーヒーの苗木つくり、コーヒーの
精製、コーヒーの輸出、それから
コーヒー生産者組合の組織化にわたる
まで、字義通り、日々奮闘した。
東ティモールでそれまでつくってきた
「スペシャリティ・コーヒー」の世界
から、「インスタントコーヒー」が
デフォルトの香港に、ぼくは移ってきた。
その落差は、個人的には大きかった。
それ以来、香港で美味しいコーヒーを
追い求めて「コーヒーの定点観測」を
してきた。
香港のコーヒー事情について、
雑記として、ここに書いておきたい。
(1)香港におけるコーヒー事情
ここ5年程で、香港のコーヒー事情が
一気に変わってきた。
次の3つの点からコーヒー事情を考えて
みたい。
- コーヒーの品質
- カフェ文化
- 物語としてのコーヒー
10年前、コーヒーといえばインスタント
コーヒーであった。
そして、ミルクコーヒーである。
もちろん、そうでないコーヒーもあった
が、品質(豆・焙煎など)が相当に
低かった。
ここ5年ほどで、そのコーヒー事情が
一気に変わってきている。
ぼくの経験としては「Holly Brown
Coffee」が香港のセントラルに店を
出したあたりから、事情が変わってきた。
Holly Brownは、店舗内に焙煎機をかまえ
良質なコーヒーをとりいれていた。
開店当時はヨーロッパから専門家を
招いていた。
この時期と同時期に、香港でカフェ文化
が根づいていく。
どこにいっても、新しいカフェができて
いく時期にはいる。
カフェがふえていくと同時に、
コーヒーの品質も全体的にレベルがあが
ってきた。
コーヒーの品質がカフェ文化と併走して
きたのだ。
カフェ文化は「かっこよさ」を装い、
ファッショナブルに浸透していく。
カフェで働くバリスタも、かっこいい
仕事として物語を形成していく。
テレビドラマではカフェとそこで働く
人が描かれる。
書店では、コーヒーやバリスタの
書籍がフロントにおかれる。
コーヒーやカフェ文化は、人々の
人生の「物語」にとりこまれていく。
(2)香港とコーヒー
香港とコーヒーの関わりについて、
次の3つの点を記しておきたい。
- 異文化許容度の高い香港
- コーヒービジネス
- 空間活用としてのカフェ
コーヒー文化およびカフェ文化の浸透
は、香港の「異文化の許容度」が寄与
している。
許容度をささえる軸のひとつは、
ビジネスである。
「儲かるビジネス」は、香港では
一気に浸透していく。
香港でのコーヒーの「値段」は、
世界でもかなり高い。
香港での「Start-Upビジネス」も
この流れに加わることで、文化が
形成されてきた。
そして、香港でのコーヒーショップは
何よりも「場所の提供」である。
空間の余裕がない香港では、コーヒー
ショップは活動の場である。
一人で勉強する場であり、家庭教師が
勉強を教える場であり、保険の契約を
する場である。
(3)香港経済社会的発展とコーヒー
香港のコーヒー文化(そしてカフェ文化)
の浸透は、香港の経済社会の発展に相応
している。
リーマンショックの影響を、人々の生活
レベルではあまり受けなかった香港。
2010年代は中国大陸の発展と相伴って
経済社会が発展してきた。
面白いことに、コーヒーの浸透は、ワイン
の浸透とも併走してきたように見える。
香港は5年ほど前から、中華料理の食卓に
赤ワインが日常化してきた。
また、カフェ文化の浸透は、
ケーキ類の品質向上にも影響してきた。
以上、香港の「コーヒー事情」を、
雑記として、書いてきた。
個人的には、コーヒーの品質はもっと
高くなってほしい。
ブラックコーヒーを好む人は少ないため
そこのブレークスルーはむずかしい。
ハンドドリップコーヒーを提供する
ショップもでてきているが、需要は
少ない。
ハンドドリップ技術も高くない。
それにしても、世界どこにいても、
文化の「定点観測」は、ぼくたちの生を
豊饒にしてくれる。
追伸:
香港で、東ティモールのコーヒーを
提供しているカフェを見つけた。
日本人経営で、コーヒーは日本からで
あった。
香港人の店員さんに、その東ティモール
コーヒーが日本のどこからきているか
聞いてみたが、わからないとのことで
あった。
ぼくはハンドドリップでオーダー。
そこには、東ティモールの香りと味が
確かに感じられた。