…存在そのものが「質問」になっている人を僕は芸人と定義している。
西野亮廣『魔法のコンパスー道なき道の歩き方』主婦と生活社
「道なき道の歩き方」という副題にひかれ、ずっと読みたかったけれど、電子書籍版が出ていないため「先送り」にしていた本。
「芸人」であるキングコング西野のベストセラー著作。
読むことを先送りしていたけれど、「大停電の夜に」という逆転劇を、停電した新幹線の中で、「トラブルは、映画のように片付ける」というモットーで成し遂げた西野の行動力に触発されて、ぼくはハードコピーを手にした。
本書は4章から構成され、合計で43項目のトピックが展開されている。
【目次】
はじめに
第1章:向かい風はボーナスチャンス!
第2章:お金の話をしよう
第3章:革命の起こし方
第4章:未来の話をしよう
おわりに
冒頭の言葉は、この本の「はじめに」で語っている「芸人の定義」だ。
西野は、ナインティナイン岡村の考え方(“ひな壇に出る芸人”)を引きながら、それに反論する仕方で、自身の芸人の定義を語る。
…ひな壇に出る芸人がいていいし、ひな壇に出ない芸人がいてもいいんじゃないかな。
…「それもいいけど、こういう“オモシロイ”があってもよくない?」と提案したり、時に「アイツのやっていることは、はたして正解なのかなぁ」という議論のネタになったり、そういった、存在そのものが「質問」になっている人を僕は芸人と定義している。
…僕は芸人で、とにかく面白いことをしたい。それだけ。
西野亮廣『魔法のコンパスー道なき道の歩き方』主婦と生活社
これが、この本の導入部分でありながら、ある意味、言いたいことの核心が尽くされていると、ぼくは思う。
西野は、世間の「当たり前」や「前提」を深いところで問うことを生きる。
…僕は、ある時、「お笑い芸人が、ひな壇に参加せずに生きていくためにはどうすればいいだろう?」という「問い」を持ち、その「問い」に人生を賭けてみることにした。
西野亮廣『魔法のコンパスー道なき道の歩き方』主婦と生活者
西野の生き方は、「問いを持つ」生き方だ。
大切なことは「問い」を持つことだ、ということを、いくどもいくども書いている。
「問い」が、道なき道を照らし出すコンパスなのだ。
ぼくが、好きなトピックは、「20 戦争はなくならない」というところだ。
ここでは、それまで「戦争が無くならない理由」など考えたことがなかったところ、タモリに、その質問を投げかけられ、そしてタモリの考え方に、西野は深く揺さぶられる。
これを契機に、西野は「戦争」と真剣に向き合うようになる。
「戦争は無くならない」というところから考え始めたら、無くし方が見つかるかもしれない、という谷川俊太郎(とタモリ)の考え方を導きに、この「問い」に「答え」を見出そうとする。
西野は、そうして、こう考えるようになる。
…「僕らは戦争を無くすることはできないのかもしれないけど、止めることはできる」
答えは僕が子供の頃から信じているエンターテイメイン。
…エンターテイメントが世界中の人間を感動させている瞬間だけは平和で、「だったら、その時間を長くすればいいじゃん」というのが僕の結論。
西野亮廣『魔法のコンパスー道なき道の歩き方』主婦と生活社
これは、「問題を裂開すること」(真木悠介)を方法とした肯定性への着地である。
「否定の否定」は「否定」にしか行き着かない。
だから、いったん、「戦争を無くす」という問題の立て方をせず、谷川やタモリのように、「戦争はなくならない」というところで「問い」を立てる。
そして、そこから、問題を裂開していく。
西野は、「問い」に「答え」が埋まっていると言う。
それは正しくもあるけれど、より正確には、「問い」を裂開して、答えを見出している。
世間のいろいろな事象・対象にたいしても、自身の活動においても、「問い」をひろいつづけ、道なき道で、問題を裂開し、「答え」を実践的に生きている。
そして、西野亮廣は、対象にたいしてだけでなく、自身の存在そのものが「質問」であるような生き方を実践している。