香港で、「糖水」を楽しみながら。- 「糖水」に見るデザート文化。 / by Jun Nakajima


「糖水」(Tong sui)は「広東料理の最後にデザートとして出されるスイーツ、甘くて温かいスープまたはカスタードの総称」(wikipedia「糖水」)である。

字から見てとれるように、「sugar+water」ということで、基本レシピは例えば「材料+シュガー+水」からなっている。

種類はいろいろで、例えば、こんなものだ。

●「黒ごまと砂糖と水」が長時間火にかけられてつくられる「芝麻糊」(black sesame soup)

●「ピーナッツ系と砂糖と水」でつくられる「花生糊」(peanut paste soup)など

●「小豆と砂糖と水」などがベースでつくられる「紅豆沙」(red bean soup)

●豆腐をベースとした豆腐プリンともいうべく「豆腐花」

そのほかにも、いろいろとある。

これらの自然食材それぞれが「効用」をもち、「糖水」ごとに「身体への効用」が語られる。

身体を「温める/冷ます」という効用はもちろんのこと、咳に効くとか、腎臓によいとか、である。

 

このような「糖水」は、例えば、次のような「形式」で、食べることになる。

  1. 「広東料理の最後に出されるデザート」という(おそらく)オリジナルの形式
  2. デザート店
  3. 小売店

オリジナルの形式に近い形で、夕食後にレストランで食すこともあれば、レストランを出てデザート店に向かうこともある。

あるいは、デザート店や小売店で購入して、家にもちかえって家族と食べることもある。

ただのデザートという以上に、「糖水」は香港文化のなかに根をおろしている。

その証拠といっては何だけれど、夜は「糖水」を出す店はどこも人でいっぱいで、活気にみちている。

「糖水文化」の効用としては、このように「人をつなげる」ことも挙げられる。

「糖水」を媒介にして、家族や友人同士などが集うことになる、あるいは「お茶をする」ようにコミュニケーションを促進する。

 

しかし、伝統的なデザートがしばしば直面するように、「糖水」もモダン化してきているようなところがあるように見受けられる。

「糖水」はつくるのに手間と時間がかかるという意味で、スローフードだ。

「スロー」は、より効率的で手間のかからない方法にとってかわられることもある。

また、都会という環境のなかで、味が強くなり、例えば「甘さ」のもとで素材の味がのっとられてしまうこともある。

このようなモダン化の圧力のなかで、「昔ながらの自然な味」は押しやられてしまうことになる。

「昔ながらの味」を知っている人たちから、そんなことを聞いたりする。

また他方で、他の「都会的でモダンなデザート」が続々と出てくる。

香港はさらに、「高い賃料」という最大の難関があり、店舗を維持するのが難しく、またコストカットのプレッシャーも強い。

 

そのような状況だから、おいしい「糖水」のお店をみつけると、おいしさを楽しむと共に、応援したくなる。

だから、近くによれば、食事の後などに寄って「糖水」を楽しむ。

時には、はるばる、おいしい「糖水」を目的として、足を運ぶ。

そしておいしい「糖水」を楽しみながら、そこに昔から守られてきた味と心を感じ、これからもつくり続けてくれることを願ったりする。

一般的に、「伝統」というのは、しばしば外部から来たものたちによっても支えられたりするように、「糖水」という伝統を、外部から来たぼくは、楽しみながら食べることで応援する。

少しモダンな「カシューナッツ」のペーストを楽しみながら、ぼくはそんなことを考える。