人生やビジネスの現場で、「挑戦と成功/失敗」の関係性は、つぎの順番で重宝される(はずである)。
●挑戦し、成功する。
●挑戦し、失敗する。
●現状維持
ここでは、「挑戦」や「成功/失敗」とは何かを語っておらず、またここに「時間軸」を座標軸としてひいてしまうと、議論が複雑になるので、いったんこのままで話をすすめたいと思う。
さて、この序列は、日常のなかで、たとえば、つぎのように「変形」してしまう。
●挑戦し、成功する。
●現状維持
●挑戦し、失敗する。
「失敗」を回避することが、意識的であれ、無意識的であれ、重要視されてきて、「失敗回避」が目的化しはじめるのである。
さらに、「挑戦」ということや「成功」ということが、じぶんや周りにおいて「低く」見られる(重宝されない)事情がかさなったりして、つぎのようになってしまう。
●現状維持
●挑戦し、成功する。
●挑戦し、失敗する。
「挑戦」も「失敗」も、それらの機会を剥奪されてしまう。
「失敗はピンチではなく、チャンスである」ということは、そのことを経験してきた人たちにはよくわかることである。
この恩恵に加えて、失敗には、「もっと大きな恩恵」があるということを、「能」の観点から、人工知能研究者/脳科学コメンテーターの黒川伊保子が書いている。
失敗は、脳にとって、最高のエクササイズなのだ。失敗して痛い思いをすると、その晩、脳は失敗に使った関連回路の閾値(生体反応に必要な刺激量)を上げて、電気信号が行きにくくなるようにするのである。
失敗すれば、その晩、脳が進化するのだ。同じ失敗を繰り返さない脳に。失敗を重ねれば重ねるほど、私たち
の脳は、失敗しにくい脳に変わる。失敗に「し損」はない。
ただし、失敗を他人のせいにする人は、脳が失敗だと認知できないので、脳は進化しない。失敗を悔やみすぎる人も、そのネガティブ信号が強すぎて、うまく進化できないことがある。
「失敗は潔く認めて、清々しく眠る」が正解。ショックが大きすぎたり、くよくよと考えすぎると、失敗回路をむしろ強めてしまう。黒川伊保子『前向きに生きるなんてばかばかしい 脳科学で心のコリをほぐす本』(マガジンハウス、2018年)
脳には「天文学的な数の回路」があり、優先順位がついていないととっさの判断がかなわないということのなかで、失敗(と成功)によって優先順位がつけられてゆくのだという。
それにしても、「失敗は潔く認めて、清々しく眠る」という方法は、爽快だ。
たしかに、失敗をしたときに陥りやすい方向として、「他人のせいにすること」と「悔やみすぎること」があり、「脳」の観点から、これらの負の側面が指摘されている。
後者について、もう少し、黒川伊保子の語りを引いておこう。
失敗は、くよくよと思い返してはいけない。なぜなら、せっかく通電しにくくした失敗回路に、もう一度通電してしまうからだ。
失敗を、ジョークにして、笑い飛ばすのはいい。しかし、ありありと思い出して、内向させるのはNGだ。
…
特に、人に愚痴るのは、いけない。なぜなら、思い浮かべることで1回、口にすることで2回、その音声が耳から入ってくることで3回、親切な友だちが同情でもしてくれたら、それでもう1回、計4回も脳に書き込むことになる。失敗を告白するのなら、ぜひ、笑い飛ばしてくれる友人を選ぼう。黒川伊保子『前向きに生きるなんてばかばかしい 脳科学で心のコリをほぐす本』(マガジンハウス、2018年)
なお、「人に愚痴る」ことの負の側面として付け加えておけば、語ることで「発散」できると思いつつ、実のところ、感情はじぶんの心の奥深くに抑圧されてゆくのだとも言われているのである。
なにはともあれ、「失敗のすゝめ」。
もちろん「失敗」を目的とということではなく、「失敗をよし」とする構えに生き、「失敗をよし」とする雰囲気・環境づくりをすることで、恩恵がもたらさせるのである。