香港で、日本産の「さつまいも」を選びながら。- 「さつまいも」への視点。 / by Jun Nakajima

「さつまいも」がいっぱいに積まれている。

日本のいろいろな産地・農場の「さつまいも」だ。ぼくの生まれ故郷である浜松の「うなぎいも」(うなぎを肥料として栽培されたさつまいも。浜名湖のうなぎと遠州浜のさつまいものコラボレーション)も並んでいる。

ここ香港の、スーパーマーケットの光景だ。

さまざまな産地・農場の「さつまいも」が、ほんとうにいっぱいにならんでいる。ここ数ヶ月、ずっとそんな様子だから、香港の人たちはそんなにたくさんの「さつまいも」を食べる習慣があったかどうか、途中から疑問がわいてくる。

香港での「さつまいも」と聞いて、ぼくが思いつくのは、デザートである。「糖水」のひとつで、しょうがのスープにさつまいもが入っている。とてもシンプルなデザートで、身体があたたまる。家でもつくることのできるデザートだけれど、「糖水」を提供するような香港のデザート店で食することができる。

「さつまいも」と聞いてすぐに思いつくのは、そのくらいなのだ。だから、たくさんの日本産「さつまいも」を前にしながら、ふと気になってしまうのである。


香港で10年以上暮らしながら、香港で受け入れられる「日本食」や「日本食食材」の動向が気になったりするのだけれど、たとえば、「納豆」がより日常化して、香港のスーパーマーケットで売られるようになってきたのを実感する。香港に住んでいる日本人だけでなく、香港の人たちも購入している。

「さつまいも」も、ここのところスーパーマーケットでよく見られるようになっていて、日本からの市場開拓と輸出がすすんできたのだろうと思いながら、また供給が増えたことから価格もよりリーズナブルになってきている恩恵も受けながら、ぼくは「さつまいも」を購入する。こうして、日本産の「さつまいも」はやはり甘いなぁと感じながら、おいしくいただくのである。

そうしているあいだにも、スーパーマーケットには、日本から輸入された「さつまいも」が、ひきつづき、いっぱいに並んでいる。さらに、増えたようにも感じるほどだ。


そのようにして「ふと気になったこと」を、ぼくは、香港の友人に直接に聞いてみる機会があったので、聞いてみることにした。

香港の人たちは、どのようにして「さつまいも」を食べるのか。

「デザートとして食べますよ」と、ぼくが連想していた、しょうがとさつまいもの「糖水」が最初の応答であった。

でも、それだけでは、来る日も来る日もスーパーマーケットに並ぶ「さつまいも」の事情は説明しきれない。だから、ぼくの質問の背景を説明して、再度聞く。

「そのままでも食べるよ。ふつうにふかすなどして」

日本産の「さつまいも」はとても甘く、最近は価格もリーズナブルになってきているから、よく食べられているのではないかと、友人は話してくれる。

ぼくは別に突飛な回答を期待していたわけでもないから、話を聴きながら、ふつうに納得してしまう。


「さつまいも、香港」でグーグル検索をしてみると、日本の農家の事情、香港・台湾・シンガポールの市場開拓など、記事や動画などで知ることができ、これがなかなかおもしろい。

日本では小さい「さつまいも」の市場価値がひくいところ、香港では(料理しやすいことなどから)小さいものが好まれると見た農家が、そこに特化してゆく様子などが語られていたりするのだ。

いろいろな人たちの、いろいろな事情が、いろいろな仕方で絡まり、つながりながら、香港のスーパーマーケットに日本産の「さつまいも」が、こうして並んでいる。

そのような新たな「視点」が、いっぱいに積まれている「さつまいも」に、いっそう興味をもつことの契機となる。いつも見ていたなんでもない風景が、「いつもとは違う」風景として見えてくる。


そんな香港のスーパーマーケットの野菜売り場で、「さつまいも」を前に、状態のよいものを選ぶ。選んでいると、ふと、香港の人たちも立ち止まって、「さつまいも」を選びはじめるのであった。