「宇宙を引き寄せる言葉/語る文法」(池内了)。- 池内了『宇宙入門:138億年を読む』を読む。 / by Jun Nakajima

小学生の頃だったと記憶しているけれど、ぼくは「宇宙」の世界に魅了されていた。

関心は、やがて「望遠鏡による観察」となり、望遠鏡のレンズを通して、ぼくは月や火星、木星などを見ていた。

天体ということに限らず、そこには何か大きなものがひろがっているような感触に、ぼくの想像はかきたてられた。

 

しかし、その後、学校教育のなかに入っていくなかで「試験・受験勉強」の語彙と文法にからめとられ、ぼくは自然科学の興味を失ってしまった。

宇宙物理学者の池内了は、著書『宇宙入門:138億年を読む』(角川ソフィア文庫)の「まえがき」で、受験における、無味乾燥な暗記や計算、意味不明な記号、考える暇を与えない答えの訓練等が、物理学から人をとおざけてきたことを、語っている。

ぼくの埋もれた好奇心をひらいてくれたのは、やはり「夜空」であったように、ぼくは思う。

ニュージーランドでキャンプをしているとき、またトランピングの折に見た、夜空にひろがる星たち。

西アフリカのシエラレオネの空にひろがる広大な空間。

東ティモールの山に、ふりそそぐ流星たち。

香港でも、中秋節を迎える頃には、月が圧倒的な光をふりそそぐ。

そして、時代は、宇宙探索の「空白の時代」を超えて、今また、火星やそれを超えるところに視界をとらえている。

 

「宇宙」は、人の好奇心をかきたてるものでありながら、現代において実にいろいろな「意味」をもっている。

そのような導火線にみちびかれながら、ぼくは「宇宙」について再び、学び始めている。

内田樹の語るところの、私たちが知らないことから出発する「よい入門書」(内田樹『寝ながら学べる構造主義』文春新書)を探していたところ、池内了の「宇宙入門」に出くわした。

専門家向けではなく、ぼくのような一般の人向けに書かれ、「解かれていない」宇宙の問題を語っている。

「宇宙を引き寄せることば」と「宇宙を語る文法」という構成で、ぼくたちに語りかけてくれる。

 

池内了『宇宙入門:138億年を読む』(角川ソフィア文庫)

【目次】

Ⅰ 宇宙を引き寄せることば
第1章 ビッグバン
第2章 インフレーション宇宙
第3章 膨張宇宙
第4章 バブル宇宙
第5章 渦巻銀河
第6章 フィードバック
第7章 潮汐力
第8章 望遠鏡

II 宇宙を語る文法
第9章 エントロピーの法則
第10章 エネルギー保存則
第11章 運動量保存則
第12章 ベルヌーイの定理
第13章 遠心力
第14章 コリオリ力
第15章 フラクタル
第16章 チューリングモデル

 

「宇宙を引き寄せる言葉/宇宙を語る文法」を、ひとつひとつ丁寧に、池内了が読者に提示してくれる。

「ビックバン」という、今では「正統的な理論」も、市民権を得たのは実はここ50年ほどのことだという。

「初めに光ありき」と語られる「ビッグバン」は、非常な高温で、高エネルギーの「光」に満ちていたと考えられている。

その光は、宇宙が膨張していく過程でエネルギーを失い、その光は現在「電波」となって宇宙にただよっているということが、ビッグパンの証拠であるという考え方だ。

池内了は、しかし、「ビッグバン宇宙論」を疑う態度は忘れてはならないのではないかと、語る。

 

人間に眼を投じたときにぼくを捉えたのは、私たちの体も「光のエネルギー」を発していることに、池内了がふれたところである。

 

 温度が高いと放射されるエネルギーも高くなります。私たちの体は、体温に応じた光である赤外線を放射していることは、暗闇でも赤外線写真が撮れることからもわかります。私たちも「輝いている」のです。…

池内了『宇宙入門:138億年を読む』角川ソフィア文庫

 

ぼくたちは、この暗闇の宇宙のなかで「輝いている」。

SpaceXのロケット「Falcon Heavy」に搭載されたテスラ車「Roadster」の前方には、大きな「暗闇」がどこまでもひろがっている。

そのようなはるかな暗闇のなかで、「輝いている」人たち。

ぼくは、池内了がふと書いた「輝いている」という言葉とイメージに、どこかひかれている。