「じぶんの考え方でつくられた家」を「引越し」する。- シエラレオネでかかったマラリアに教えられて。 / by Jun Nakajima

 

ここ数日、西アフリカ・シエラレオネ
の「記憶の井戸」に降りていったら、
・シャワーのこと
・運動会のこと
の記憶が、井戸の底からわいてきた。
そして、シエラレオネは、ちゅうど、
独立記念日を迎えたところであった。

「記憶」というものは、
一度溢れ出すと、いろいろな記憶が
一緒になって溢れてくる。

ぼくは、シエラレオネで、人生で初めて
「マラリア」にかかったことを思い出す。
すでに15年以上前のことになる。

「蚊」を媒介としてかかる感染症として
は、主に、マラリア、デング熱、黄熱、
それから最近話題となったジカ熱などが
ある。

シエラレオネに入国するには、事前に、
黄熱病の予防接種が必須である。
だから、黄熱には予防接種で対応して
いた。

他方マラリアには、当時ワクチンが
なかった。
先日、イギリスの製薬会社が開発した
ワクチンを、アフリカ3カ国で試験運用
していくことがニュースになっていた。
ぼくがシエラレオネにいた当時は、
ワクチンはなかった。

予防としては投薬もあるが、副作用が
重すぎるため、通常の蚊対策(スプレー
や蚊よけコイルなど)で予防する。
寝るときは、必ず、蚊帳(かや)を使う。

マラリアは、突如、やってきた。

当時、大きな仕事をかかえ、それなりの
期間、仕事にかかりきりになった。
ようやく、その仕事を終えることができ
仕事完了祝いをかねて、夕食を外でとって
いた。
夕食がすすみ、談笑もつづいていた。
ぼくも、解放感と共に、夕食を楽しんで
いたところだった。

そのときのことであった。

ぼくは、座っていた椅子から転げ落ちる
ような形で、起き上がれなくなったのだ。
何が起きたのかわからず、
しかし、立ち上がれず、また歩けない。
歩けなくなる経験はそれまでにほとんど
したことがなかった。

それからのことは実はあまり記憶にない。
レストランから事務所兼住まいへ戻る際
も、車内では横になり、住まいに戻って
も、高熱にうなされていたことは覚えて
いる。

知り合いの医師に診てもらったのだと、
おぼろげながら、覚えている。
マラリア診断キットで確認もしたのだと
思う。
マラリアは治療薬は充実していること
から、治療薬をとった。
治療薬による副作用で、ひどい夢に
うなされたことも覚えている。

数日間(それでも途中仕事をしながら)
ぼくは違う世界をさまよっているよう
な感覚にあった。

回復後、蚊対策を強化し、自分自身の
免疫力を高めることに注力した。
シエラレオネで会った「国境なき医師
団」の知り合いからは、予防策の一つ
として、ニンニクを直接皮膚に塗りつ
ける方法を習ったりもした。

ぼくは、その後も、マラリアには
悩まされる。
しかし、最初にかかったマラリアほど
の「重さ」はなくなった。
そして東ティモールに移ってからも、
マラリアにかかることが幾度となく
あった。
それでも、東ティモールのマラリアに
比較し、ぼくの感覚では、アフリカの
マラリアの方が「強力」であるように
感じた。


シエラレオネと東ティモールでの経験
から学んだことは、
「予防」の大切さということである。

環境整備による予防もそうだし、
自分自身の体調管理などによる
自己免疫力強化はとても大切である。

しかし「自分自身のこと」となると、
後回しになりがちだ。
他者をまずはケアしよう、
自分はなんとかなるだろう、
といった考え方などに規定され、
自分自身を酷使してしまう。

でも、後回しによる苦い経験の数々が
後回しにしてしまうような考え方と
感覚で固められた、ぼくの「自我の殻」
を、少しずつだけれど、破ってきた。

ぼくは未だにこの「殻」を完全には
破りきれずにいるけれど、
でも確実に、違う殻に「引越し」を
している。

「じぶんの考え方でつくられた家」を
「引越し」すること。

「じぶん」とは、「ひとつの家」のよう
に、その内にたくさんのもの・ことを
内包する、ひとつの「システム=複合体」
である。
「じぶん」という結節点を基点に、
いろいろなもの・ことが、システム的に
つながっている。
一部だけでなく、システムを変えること
は、なかなかに、骨の折れることだ。

何はともあれ、「引越し先」は、
「まず何よりも自分自身のコンディシ
ョンを最善に整えること」
という考え方と、その行動である。
この点においては自分を優先する。
自分を何よりも先におく。
でもそうすることで、他者にもより
よく貢献できる自分を準備することが
できる。

この「引越し」のために、
ぼくは、いろいろなものを捨て、
いろいろなものを変えてきたと思う。
実際の「外的な世界」でも、そして
ぼくの「内的な世界」でも。

ぼくは、この家の「引越し」を、
何年にもかけて実行している。
それは「時間を要する引越し」だ。
一部を引越しすると、その下のレイヤ
ーから、また片付けなければいけない
ものが出てくる。
だから、海をゆったり渡る船便のよう
に、焦らずに、引越しをしている。

村上春樹の小説(『騎士団長殺し』)
の主人公のように、
「時間を味方」につけながら。

 

追伸:
「マラリアの記憶」がわいてきて、
マラリアをGoogleで検索をかけたら、
「世界マラリアデー」が出てきました。

「世界マラリアデー」というのがあって
先日の「4月25日」のことでした。
これも、偶然ですね。

世界では、今も年間2億人以上が
マラリアにかかり、40万人以上の
人たち(特に子供たち)が亡くなって
います。