漫画「クロカン」。
「型破りなクロカン野球で目指せ甲子園」(マンガトリガー)というストーリーで展開される作品(著者:三田紀房)。
1996年から2002年まで雑誌で連載され、アプリ「マンガトリガー」で、無料(「待てばタダ」)で掲載されている「懐かしい作品」である(ちなみに「マンガトリガー」のビジネスモデルは面白い)。
ぼくは「マンガトリガー」で初めて知り、作品に描かれる、人と組織(チーム)、それからマネジメントということを考えさせられながら、作品を読んでいる。
甲子園をめざす桐野高校野球部の監督、黒木竜次(28歳)、通称クロカンが主人公である。
監督就任後に3年目に県大会ベスト4、4年目で準優勝にまでチームをつくっていく。
同野球部の部長、森岡謙一郎(28歳)が描く「エース中心の、守り抜く野球」とは対称的に、クロカンの指導方法と監督の采配は「はちゃめちゃ」である。
高校時代は二人でバッテリーを組んでいた森岡にどういうチームを作りたいのかと聞かれ、「しいていえば、バカばっかのチームだな」と応答するクロカン。
そんなクロカンが、甲子園をめざして、「はちゃめちゃ」な策を展開する。
第2話「口火」は、口火として、策のひとつがチームに「火を灯す」ストーリーである。
既成事実的にエースだと誰からも思われているピッチャーの正宮をショート(+抑えのピッチャー)に転向させる。
チーム内にも、チームの外にも、波紋を広げていくなかで、キャプテンの小松がクロカンに相談にくるシーンがある。
小松は、クロカンに、なぜ正宮をショートに変えたのかをたずねる。
「あの 監督……
教えて下さい
どうして正宮をピッチャーからショートにしたんですか?
みんな頼りにしてたエースが急にショートだなんて…
…
みんな憶測とか噂とか……
好き勝手なこと言い出して
モメてケンカ腰になって収拾つかなくて…」
三田紀房『クロカン』コルク
キャプテン小松にたいし、「ダメだ……俺から理由は言わねぇ……」と伝え、クロカンは「答え」をさしださない。
あくまでも、自分で考えさせる姿勢をとる。
そして、クロカンは、小松をまっすぐに見つめ、次のように尋ねる。
「おまえはあいつらとどういうチームにしてぇ?」
「キャプテンとしておめえはどう思うかって聞いてんだよ」
三田紀房『クロカン』コルク
チームで話し合ったこともないと答える小松にたいし、クロカンは言葉を続ける。
「チームは俺や森岡や誰のものでもねぇ
おまえらのもんだろ
それをどうしたいのか
自分らで考えもしねぇのか」
「まず
てめえらで考えろ……」
三田紀房『クロカン』コルク
黙る小松にたいし、「モメることを恐れるな」と最後にアドバイスをなげかける。
ぼくはこのシーンに心を動かされる。
漫画であるし、高校野球という枠のなかではあるけれど、人や組織(チーム)をかんがえる際に、とても大切なことを「物語」として描いている。
「守り」に入ってしまう人とチーム、既成事実的に動くチーム、どういうチームにしたいかがわからないチーム、「考えること」を現実には放棄してしまっている人など、物語を通じてかんがえさせられてしまう。
それらは、現実に、人や組織が直面していく問題であり、課題だ。
さらに、直接的には語られていないことで、ぼくが気になっているのは、この「口火をきったタイミング」である。
監督になって4年目に準優勝を果たした後に、この「口火」がきられたことだ。
そんなことをかんがえながら、ぼくは次の話へとすすんでゆく。
「まず、てめぇで考えろ」というクロカンの声が、ぼくにはきこえてくる。