「人間の歴史」を巨視的に視ること - 見田宗介の明晰な理論 / by Jun Nakajima

「人間の歴史」を巨視的に視ること。
日々の生活や明日生きていくことには
関係なくみえる。

でも、そのことは、ぼくたちの
「生き方」をきりひらいていくため
にも、とても大切なことである。
今日のパンをつくってはくれない
けれど、ベネフィットは大きい。

「不確実性の時代」のなかで、
日々のメディア情報の渦のなかで、
巨視的な視野を獲得しておくことは
精神をおちつかせてくれる。

Yuval氏の著作、
『Sapiens』と『Homo Deus』は
そんな効果もあたえてくれる。

巨視的な視野を獲得していく上で、
見田宗介先生の理論は極めて明晰で
ある。

見田宗介『社会学入門』(岩波新書)
に収められている論考、
「人間と社会の未来 - 名づけられない
革命 -」は、とてもパワフルである。

そのなかで展開される論の内の二つは
次の通りである。

●人間の歴史の五つの局面。現代の意味
●現代人間の五層構造

「人間の歴史」は、五つの局面から
なっている。

  1. 原始社会(定常期)
  2. 文明社会(過渡期)
  3. 近代社会(爆発期)
  4. 現代社会(過渡期)
  5. 未来社会(定常期)

見田先生は「現代」をこのように
明晰にとらえている。

 

…「現代」と呼ばれる社会は、この
「近代」の爆発の最終の位相である
という力線と、新しい安定平衡系に
向かう力線との拮抗する局面として、
未知の未来の社会の形態へと向かう、
巨大な過渡の時代としてとらえておく
ことができる。

見田宗介『社会学入門』(岩波新書)


見田宗介先生はこれに照応する
ように、「現代人間の5層構造」を
図示している。

④現代性
③近代性
②文明性
①人間性
⓪生命性

その上で、大切なものに焦点をあて
るように、ていねいに説明を加えて
いる。

 

人間をその切り離された先端部分
のみにおいて見ることをやめること、
現代の人間の中にこの五つの層が、
さまざまに異なる比重や、顕勢/
潜勢の組み合わせをもって、
<共時的>に生きつづけている
ということを把握しておくことが、
具体的な現代人間のさまざまな事実
を分析し、理解するということの
上でも、また、望ましい未来の方向
を構想するということの上でも、
決定的である。

見田宗介『社会学入門』(岩波新書)


見田先生は、このことばを、
言い方をかえながら、繰り返すよう
な仕方で、ていねいに添えている。

ぼくたちは、日々、「人間をその
切り離された先端部分のみ」で
みてしまう。

この警鐘を、この書が出版される
数年前に、ぼくは見田先生の講座
で耳にしていた。
そのときは「素描」のような仕方
で論を展開されていた。

ぼくは、その後、西アフリカの
シエラレオネ、東ティモール、
そして香港と移住していくことに
なる。

世界のさまざまな人たちに出会い、
一緒に喜び、一緒に苦闘し、
一緒に悲しみ、ときには互いの
フラストレーションをぶつけあう。
そのなかで、自分の感情から、
一歩距離をおくとき、ぼくは
この「現代人間の五層」を
思い出してきたのだ。

 

見田先生は、この文章につづき、
「名づけられない革命」の
素描的な記述をしている。

Yuval氏の新著『Homo Deus』
の副題「A Brief History of
Tomorrow」にある「明日の
歴史」を、この「名づけられない
革命」に接続することを、
ぼくなりに思い巡らしている。

「名づけられない革命」が
「明日の歴史」を形づくる、
ひらかれた未来を想像しながら。