こんな会社がある。
朝、社員が出社すると、こんな会話がなされる。
社員:「世界を変えに来ましたー!」
社長:「君が来るのを待っていた。世界を変えるために、コピーを2枚とってくれ!」
社員:「いいんですか、世界を変えても。…社長、世界を変えてしまいました。コピーを2枚とっちゃいました。」
社長:「よくやってくれたー!」
株式会社アントレプレナーセンターの、実際の風景だ。
代表取締役の福島正伸が、音声を通じて、このような話をリスナーに届けている。
「人間の欲求」と題された音声で、福島正伸『真経営学 音声全集:第4巻』の中に収められている。
福島正伸の「経営学」のエッセンスが厳選され、語られている。
この音声全集は、「社会復帰は、もうできない」というガン宣告を受けた福島正伸が、今後声も出すこともできないかもしれない、仕事ができなくなるかもしれない、命を落とすかもしれない中で、3日間かけて収録された全集である。
咽頭がんであったため、声を出し続ければガンが進行する可能性がある中での録音である。
その後、治療法を見つけ出し、奇跡的に復帰した福島正伸が、復帰後にこの音声全集のCDを1000セット発売し、ぼくはその時にこの音声全集を手にし、まさしく命を吹き込まれたこの音声全集に耳を澄ませた。
この「真経営学」は、昨年に書籍化されている。
ふと、ぼくはふたたび聞きたくなって、「人間の欲求」という音声の再生ボタンを押した。
「人間の欲求」について、福島正伸は、正反対の欲求としての二つの欲求を挙げている。
● 安楽の欲求(無意識でいると易きに流れるなど)
● 充実感を得たい(生きがいなど)
無意識でいると、ついつい楽をしたくなるのが人間だけれど、それではつまらなくなってしまうのも人間。
充実感を得たいという欲求だ。
「充実感」について、福島正伸はさらに、次のように定義している。
● 毎日味わっている充実感=「生きがい」
● 大きな充実感=「感動」
この「充実感を得る」ための六つの条件として、福島正伸は次のものを挙げている。
1.明確な目標があること(行動をするために)
2.困難を伴う(できるかどうかわからない状態にあること。結果が保証されていないこと)
3.努力
4.それをあきらめないこと(結果が見えない中で努力を継続する時間)
5.自発性(自分がやりたいと思ってやっているか。最終的に自分の意志でやっていること)
6.仲間・協力・支援(喜びは他人と分けると2倍になる。悲しみは半分になる)
この全体像と内実に、ぼくは共感する。
最近のぼくの関心に引っかかったのは、一つ目の「明確な目標」ということである。
その文脈で語られたのが、冒頭の「世界を変えるためのコピー」の話である。
仕事は何気なくやらないこと。一つ一つの仕事に意味を見つけ、一つ一つの仕事で社会に貢献していくこと。そうして、充実感を得ていくこと。仕事は、限界まで楽しんでやっていくこと。
福島正伸の言葉は、語る。
「明確な目標」ということでは、この「明確であること」を強調する。
例えば、どんな気持ちで、どんな表情で、どんな言葉を使って挨拶をするか、そんな明確なイメージをもって会社をつくること。
明るい職場だったら、こんな笑顔があり、こんな言葉が交わされ、こんな行動が起きるということを、明確にしておくことである。
福島正伸は、「小説」にするとわかりやすいとしている。
現に福島正伸の著作『理想の会社』では、小説の「物語」として、理想の会社を描いたという。
小説、小説のように物語で語ることで、すごくわかりやすくなる。
目標とか夢、社風、今日使う言葉まで、できるかぎり描ききることを、福島正伸は語る。
実現は、その先にやってくる。
福島正伸は、この「充実感」は、一度体験されると繰り返されることを、最後に語っている。
そこでは、人は自分で考えて行動していくようになるのだ。
<物語の力>ということを、ぼくはずっと、考えてきている。
「物語」には、福島正伸が語る「人間の条件」が埋め込まれている。
映画は、2時間ほどで、その軌跡をぼくたちに擬似体験させる装置だ。
主人公はテーマ・夢・目標を持ち、困難の中を努力でかけぬけていく。
なんども困難がやってきては、しかしあきらめずに、自分が選んだ人生を、仲間たちと乗り越えていくことで、感動(=大きな充実感)を得る。
同じような「流れ」であっても、人は普通、映画を見飽きるということはない。
この「物語」の原型は、太古から、神話という形で語られてきてもいる。
そして、<物語の力>は、ぼくたちの生きることにおいても、仕事場においても、人との関係性においても、ほんとうに大きな力となる。
「世界を変えるためのコピー」は、物語の力の一端だ。
人も組織も、まだまだ、福島正伸の言うように、目標や夢を描ききれていない。
「できない」「ダメだ」と言う前に、ぼくたちにはやることが山ほどある。
愚痴が出る出番はない。
まだ、全然試しきれてもいないのだから。