「靴」に新たな命を吹きこむ。- 靴磨き職人に導かれながら。 / by Jun Nakajima

革靴用のクリームをきらしてしまい、香港の街中で探していたのだけれど、探していた品が品切れなどのため見つからない(ちなみに、香港で売られている革靴用クリームには日本製がよく見られる)。

どうしようかと思っていたところ、しばらくのあいだをしのぐために、靴磨き職人の方に磨いてもらうことにする。

そこで、革靴を持って、靴のケアや修理などを専門にしているお店に立ち寄って、靴磨きのサービスを確認する。所要時間を確認したところ、思っていた以上に時間がかかるようで、そのときのぼくにはそんな長い時間の余裕がなく、またお店の雰囲気もあまりぱっとしないので、このお店のサービスを利用しないことに決める。

どうしようかなと思っていたところ、香港の中心部に位置するセントラル地区のショッピングモールの一角で、靴磨き職人の方が靴を磨いている風景を思い出す。その場所を通るたびに、気になっていたのだ。

靴磨き職人の方にじぶんの靴を磨いてもらったことがないのでよい体験にもなる。こうして、この靴磨き職人の方に、ぼくは靴磨きを依頼することにした。お昼時ということもあって、すでに先客がいる。ぼくは、靴磨きを依頼し、番を待つことになった。

ふつうは椅子に座って靴をはいたまま足を台にのせるのだけれども、ぼくはシューキーパーを入れたままの靴を手にもってきていたので、そのまま靴を渡した。ぼくは、椅子に座って、どのように磨かれるのかを間近で見ることにした。どのように磨くのかを間近で学ぶことができるチャンスでもある。

靴が磨かれる最中にいろいろと尋ねたくなったのだけれど、がまんして、靴磨きの動作に目を集中させる。

靴は徐々に色と輝きをとりもどしてゆく。10分から15分くらいだろうか。靴磨き職人の方は大きなそぶりで終了を伝えてくれる。

靴は新たな<命>を吹き込まれれたように、そこで存在感を放っている。「It’s beautiful.(美しい)」。ぼくは、職人さんに応答する。

ここに来て、そして依頼してよかったなと深く思う。

靴磨きにについては、これまでにYouTube動画などでも学んでいたのだけれど、こうして目の前でじっくり見ていると、やはり動画では伝わらないものごとがぼくに伝わってくるように、ぼくは感じたのであった。


家で「埋もれていた」海外のコインや紙幣に新たな命を吹き込み、また、こうしてぼくは、ぼくの靴に命を吹き込む。

ものごとに新たな<命を吹き込む>ときが、ぼくたちが生きているなかではあるものだ。

それらのものごとは、さしあたり「外部」のものごとでありながら、同時に、じぶんの<内部・内面>にそのまま反映するものごとだ。