会社におけるほとんどの問題は「理想の会社」を描くことで解決できるという経験をもとに、コンサルタントでありセミナー講師であり、そして経営者でもある福島正伸が、2009年に『毎日、社員が感動して涙を流す 理想の会社』という著作を書いている。
直球が投げられるようなメッセージをもつ著作であるけれど、著作を際立たせているのは、第一に「理想の会社」のイメージを他者と共有する方法として「理想の会社の状況を物語にすること」を提案していること、また第二に、その物語のもつ具体性である。
福島正伸は、文字通り、「理想の会社」を物語として描くことをすすめている。
そして、「理想の会社の状況を物語にすること」の特徴や利点は、福島自身が挙げているように、さまざまに列挙することができる。
【目次】
第1部:「理想の会社」を描こう!
第2部:「理想の会社」物語
第3部:「理想の会社」の描き方
本書は、第1部で「理想の会社」を描くことの説明があり、そのひとつの例として第2部で物語が描かれ、事例を踏まえた上で「描き方」のヒントが提示されている。
第2部の「物語」がこの本の見どころである。
ここでいう「物語」は、いわば「小説風」である。
どのような言葉が交わされるか、どのように仕事がすすんでいくか、どのように問題解決されるかなどが、小説風に、語られている。
まさに、一言一言に物語が賭けられている。
第3部で挙げられている、「理想の会社」を描くときのポイントは次の通りである。
- 日常のすべての仕事に当てはめることー当たり前と思っていることに、意義を見いだす
- 誰もがやる気になる会話ー理想のあいさつ
- 仕事のレベルを極めるー働く姿が芸術
- 常識を超える、想像を超えるー「まさかそこまで」といわれる
- 情景だけでなく、感情も表現する
- すべての人が幸せになることー会社の成長をすべての人が喜ぶこと
これらを踏まえて、「理想の会社」の情景を描く際の手法や心構えとして3つ挙げられている。
(1)理想の一日を描く
(2)良い事例をいっぱい集める
(3)「理想の会社」を描くことは、理想の会社になること
一言一言に物語が賭けられているということについては「(1)理想の一日を描く」でも、描き方のコツが書かれている。
例えば、こんな感じだ。
◇ 朝、家族にどのような気持ちで、どのようなあいさつをするか
・「おはよう!日本を変えるために目が覚めたよ」
◇問題が起きたときの言葉
・「ようやく、私の出番が来たようですね。これまでいろいろな経験をしてきたのはこの時のためだったんです。まさせてください!」
◇退社するときに、一言
・他の社員に声をかけながら、
「今日も一日、一緒に働くことができて、とてもうれしく思います。明日は、今日よりも皆さんの見本になれるように頑張ります!」
福島正伸『毎日、社員が感動して涙を流す 理想の会社』きこ書房
一言の内容どうこうではなく、先にも書いたように、「理想の会社」としてここまで描ききることに、<物語としての力>が生きてくることに、この方法の力がある。
福島正伸は、第3部の最後に、次のような言葉を置いている。
「理想の会社」を描く。
それは、理想の会社になる過程そのものなのです。
福島正伸『毎日、社員が感動して涙を流す 理想の会社』きこ書房
いわゆる「現実主義」の人たちからは、「理想と現実」という図式の中で、「現実を見なくてはいけない」と語られたりする。
人は、この「理想と現実」という図式にとらわれている。
しかし、よくよく考えていくと、現実主義者であれ、意識されなくても「理想的なもの」を抱いていたりする。
逆に理想をめざす人たちは「理想を現実化する」ということの内に「現実的である」のだ。
ぼくたちは、明確に理想を描き、それを現実化するプロセスを生きてゆくことを選択することができる。
そこでは、「理想主義と現実主義」という図式は、プロセスの内に解体されてゆくのである。
福島正伸が提示する「物語としての理想の会社を描くこと」は、「会社」に限られるものではなく、ぼくたちひとりひとりの「人生」に適用できる骨太さをもっている。
ぼくたちは、ぼくたちの「生き方の理想」を、物語として具体的に描くことができるし、それは「理想の人」になる過程そのものを鮮明に起動させる契機のひとつになると、ぼくは思う。