社会学者の見田宗介と大澤真幸による
書籍『<わたし>と<みんな>の社会
学』が、2017年3月31日に、世に放た
れた。
ぼくの尊敬するお二方の対談(「連山
縦走 われわれはどこから来てどこへ
行くのか」)と、
大澤真幸の論文(宮沢賢治『銀河鉄道
の夜』再読)からなる書籍。
「対談」は、リチャード・ドーキンス
などの生物学、動物社会学、幸福と
正義、宮沢賢治、貨幣経済、「軸の
時代」、資本主義の未来までと多岐に
わたりつつも、一言一言が深い思考と
論理に支えられている。
読者の思考の深さによって、見えて
くるものが変わってくる。
この書籍を通じて、教えられたこと
は数限りなくあるけれど、3つに絞る
と次の通りである。
(1)内容:「幸福と正義の二重構造」
対談の内容に入り込むと、際限のない
インスピレーションと尽きない議論の
種が、ひろがっている。
ここでは、最近ぼくが考えていること
とつなげて、一つだけ挙げると、
「幸福と正義の二重構造」がある。
書籍の帯の裏にも抜粋があるけれど、
見田宗介は、このように述べている。
幸福の単位は、コミューン的な小さい
集団の中の<魂の深さ>を大事にして
いくべきです。ただし、何度もいい
ますが、それを大きくしようとしては
いけません。大きな社会では、ドライ
なルールが重要です。幸福のユニット
と正義の範囲は分けて考えるのです。
見田宗介・大澤真幸
『<わたし>と<みんな>の社会学』
(左右社)
見田宗介がこれまで展開してきた、
「交響圏とルール圏」に照応する
ものである。
ぼくにとって面白いのは、
・「幸福と正義」の対置
・「幸福のユニット」という言い方
である。
「言い方」を少し変えただけで、
「角度」を少し変えただけで、
見える論理や感覚がある。
なお、見田宗介が展開してきた
「軸の時代」の議論も、
ぼくを刺激してやまない。
(2)対談の仕方
それから「対談の仕方」である。
議論の「進め方」や、
議論が「深まっていく流れ」に
心が動かされる。
見田宗介の「存在」により、
大澤真幸から本質的な話が
ひきだされていく。
また、「資本主義」の議論では、
見田宗介は大澤真幸に、
「資本主義の定義」を確認しながら
議論のすれ違いがないよう、
丁寧に議論を進めている。
言葉を大切にするお二方の議論に
ひきこまれる。
(3)尽きない議論
見田宗介の著書も対談も講義も、
真摯な読者や参加者の中に「思考の
芽」をまく。
そこから、尽きることのない「思考
の芽」である。
見田宗介は、数々の著書の「あとがき」
などで、くりかえし、尽きることの
ない議論のモチーフを投げかけること
を記している。
「こうだ、ああだ」ではなく、
そこから、くりかえし立ち上がる
トピックたちである。
この書籍も、くりかえし立ち上がる
問いを発し、議論を進め、そして
また次の問いが立ち上がる。
この問いと応答の中に、
ぼくたち自身のことはもちろんの
こと、「人と社会の未来」を考える
「思考の芽」がつまっている。
ぼくは、この小さな、でも美しい
書籍に、今後何度も立ち戻ってくる
と思う。