書籍カテゴリーに、「自己啓発」という領域がある。
多くの人たちが、敬遠してしまう領域でもある。
「自己啓発」(英語では、Self-help)という言葉に、文化や環境に規定される特定の負のイメージがすりこまれているからかもしれない。ぼくも、自己啓発という「言い方」には、しっくりこない感覚をもってきた。
2007年2月、束の間の休暇を過ごすために、東ティモールからインドネシアのバリを経由して香港に向かう飛行機の中で、ぼくの考えは変わった。キャセイ航空の音楽プログラムの中に、自己啓発のオーディオブックがあり、ふとしたところから、ぼくはそのプログラムを選び取った。そこで語られる話に、ぼくは聞き入ってしまったのだ。バリから香港に向かう青い空の中で、ぼくの人生は、飛行機と共に旋回していた。
今でも、この変化がどうして起こったのか、ぼくにはわからない。
東ティモール争乱が一段落した後、ぼくの心が「落ち着き」を求めていたからかもしれない。そのオーディオブックは、静かな語りで、ぼくに言葉を届けていた。
次のステージに向かう途上の変化であったのかもしれない。人生のステージが一段上がるような経験をするとき、ぼくたちは、そのような、説明不能な出来事に出会う。
その出来事から、ぼくは、自己啓発の領域で学び、実践し、その限界と可能性を感じてきた。だから、今では、「自己啓発」という言葉にはとらわれない。本質は著者との出会いである。そして、著者を通した自分との対話であり、その対話を生かすのも生かさないのも、自分次第である。でも、出会いがほんとうの「出会い」であれば、それは必ず、ぼくたちの人生を彩ってくれる。