人は、時に(あるいはしばしば)、旅路を急ぎたくなる。
メタファーとしての「人生の旅」でも、人は「成功」を急ぐ。
これが欲しい、あれが欲しい。今、欲しい。出来る限り早く欲しい。
あのようになりたい。今、なりたい。
誰しもが、自身の経験の内に、そのような衝動をもっている。
「実際の旅」でも、例えば、トレッキングやハイキングで、
目的地への早い「到着」(「成功」!)を衝動する。
トレッキングで思い出すのは、ニュージーランドでの経験である。
大学を休学して滞在していたニュージーランド。
ぼくは、そこで、トレッキングをしていた。
数日かけてまわるコースである。
政府に管理される山小屋から山小屋に移動していく。
数時間で移動できる場合もあれば、
場所によっては、午前に出て夕方近くまでかかることもある。
ぼくは、朝早く山小屋を出発する。
冬が終わり、しかし、まだ山頂には雪が見える光景である。
そのなか、ぼくはトレッキングコースを急ぐ。
5時間もかからない内、お昼過ぎには、ぼくは次の山小屋に到着する。
そこでゆっくりしていると、夕方くらいに、一人のトレッカーが到着する。
1日かけての到着である。
なぜこんなに遅い時間に到着なのだろう。
スウェーデンから休暇で来ているという彼女。
ぼくは、彼女から、その後も忘れられない言葉を贈られる。
「ジュン、あなたは道中何を見てきたの?」
彼女は、道の脇に咲く花や草木を、心から堪能してきたのだ。
ぼくは、返す言葉がなかった。
人生の道中を急ぎすぎていると気付いたとき、
ぼくは、彼女から教わった、とても大切なことを思い出す。
そして、自分に問いかける。
「ジュン、君はそんなに急いでどこに行くんだ?
道の脇では、いっぱいの花々や草木が、君に微笑んでいるのに。」