香港で、陽光にさそわれて、
ぼくはふと、海を近くに感じる、
あの場所にむけて外へ飛び出した。
「どこにいくんだ?」
バス乗り場で、バスを探していると
整理係のおじちゃんが、ぼくに向かって
叫ぶような声で聞いてくる。
「西貢!」
ぼくも負けじと言い返す。
おじちゃんが「こっちだ」というバスに
とびのる。
やがて、バスは、海のある風景にたどりつく。
やや霞みがかった空気のなかを、
陽光が差し込んでいる。
歩きながら、携帯電話を取り出し、
ぼくはきづく。
陽光のもとでは、携帯電話の画面は
役に立たない。
陽光のもとでは、携帯電話の画面は
みえなくなるのだ。
陽光は、ぼくに、顔をあげるように、
つげる。
陽光は、ぼくに、顔をあげて、
風景の美をつかむように、つげる。
そして、海の風景は、ぼくが訪れた
美しい風景を思い起こさせる。
ニュージーランドの90マイルビーチ。
西アフリカのシエラレオネ、
首都フリータウンにたたずむビーチ。
東ティモールの首都ディリから続く海岸線。
世界は海でつながっている。
陽光のなかで、ぼくは、<世界>を旅する。
「翼」をもって世界を移動しながら、
「根」は地球にむかってのびている。
「根をもつことと翼をもつこと」。
地球いっぱいにひろがる「海」は、
その矛盾を端的に超えさせてくれる。