セス・ゴーディン作『What to Do When It's Your Turn』-「責任」から<責任>へと開くこと。 / by Jun Nakajima


ぼくは小さい頃から、自分の強みはと
いう問いへの応答として、「責任感が
強い」ということを挙げてきた。

「責任」をもって、役割をこなすこと。
「責任」をもって、やるべきことをする
こと。

グループ、チーム、組織の中で求められる
「役割・責務」を果たす。
これはこれで大切なことである。

でも、生きるなかで、どこか、
「ひっかかり」を感じてきたことでもある。

うまくいかないことの連続の中で、
「責任」から<責任>へ、ということを
考え始めた。

その転回は、「自分の人生への責任」と
いうことである。

責任は、英語では「responsibility」。
用語を分解すると、
「response + ability」である。

「責任」は、まずは「他者への応答」
(response)である。
そして、<責任>は、第一に「自分の
生への応答」である。

しかし、<責任>も、実は、深い層では
他者へ応答である。
深い層にひびく、他者による呼びかけへ
の応答である。

 

セス・ゴーディン(Seth Godin)作の
『What to Do When It's Your Turn』は
2014年に世に出た。

「セス・ゴーディン著」ではなく、
「セス・ゴーディン作」としたのは、
装丁と内容が「作」(作品)とするのに
ふさわしいからである。

言葉と写真と絵画で織られた美しい作品で
ある。

これは、
・注文はオンラインのみ
・プリント版のみ
という特別な作品であった。

作品を通して、ぼくたちに呼びかける。
副題にあるように、
「あなたの番だよ」と。
副題の原題は、
[and it’s always your turn]である。

「表紙の女性」は、70年程前に他界した
アニー・ケニー(Annie Kenney)である。
アニーは、英国の工場ワーカーであり、
初期の婦人参政権論者であった。

1905年のタウンホール・ミーティングで、
アニーはある議員に対して女性の投票権に
ついての質疑を投げかける。
そのやりとりの結果、彼女は3日間投獄
されることになってしまった。
この彼女の勇気が運動を拡大させ、
結果として、世界を変えるにいたった。

多くの女性がこの運動において
「自分の順番」をひきうけることができたはずだ。
しかし、立ち上がり、「自分の番」を
ひきうけたのは、アニーであった。

アニーは、家庭においても、
女性参政権運動においても、
特定の「役割」を担い、責任をもって
遂行していたはずである。
運動に参加している女性たちと同じように。

しかし、アニーは、「責任」を<責任>へ
と開いたのでもあったと思う。

開かれた<責任>は、自分の人生への責任
であり、(そしてだからこそ、)他者の生への
責任に応答することでもある。

アニーは、「責任」を<責任>へと開きな
がら、「自分の番」をひきとったのである。
立ち上がり、他者たちの前に「現れ」、
他者たちをリードしたのである。

表紙のアニー・ケニーの眼に宿る決断と
勇気、セス・ゴーディンのタイトル(と
副題)に込められた「呼びかけ」が、
ぼくを、常に見つめている。
そして、ぼくに、呼びかけてくる。

大切なのは、
自分の人生に<責任>をとること。
自分の順番になったときに、その機会を
とらえること。
そして、
実は「常に、あなたの番なのだよ」と。