Joseph Campbellの著作『The Hero with A Thousand Faces』にこれから挑む。
邦訳のタイトルは『千の顔をもつ英雄』。
神話学者Joseph Campbellの、とても有名な本。
例えば、この本で展開される「英雄の基本構造」を、ジョージ・ルーカスが映画『スター・ウォーズ』の制作に取り込んだことは、とてもよく知られている。
神話における「英雄になる基本構造」は、この本の「Part 1: The Adventure of the Hero」(英雄の冒険)の各章で詳細に語られる。
世界の様々な神話に共通する英雄の型(Departure 出発 - Initiation 通過儀礼 - Return 帰還)を、Joseph Campbellは明晰に語る。
1949年に初版が発刊された、この『The Hero with A Thousand Faces』。
とても有名であるけれど、他の数々の「名著」と同様に、きっちりと読まれていない本でもある。
この原書を、ぼくは2014年にアメリカから取り寄せて、ほとんど読めずにいた本である。
電子書籍は当時も今もなく、ハードカバーである。
しかし、手に入れて読んでいない本たちは、さまざまな仕方で、ぼくたちの生に影響をおよぼすことがある。
内容は読んでいなくても、著者と著作のタイトルが、そこに「存在」している。
その「存在」が深ければ深いほどに、ぼくたちは、心身の姿勢をただす。
また時折、著作は、ぼくたちの眼の前で、ぼくたちをまなざす。
その「まなざし」が、ぼくたちの心の深奥の何かに触れる。
そして、昔に手に入れた本が、未来の自分を「救う」ことがある。
まるで、昔の自分は、未来の自分が、その著作を必要とすることを知っていたかのように。
Joseph Campbellを、「今」読みたくなった表層的な契機は、香港科学館の「古代エジプト展」である。
(ブログ:香港科学館「Eternal Life: 古代エジプト展」を観て。- 「永遠の生」を希求すること。)
Joseph Campbellが、古代エジプトの神話をどのように論じているのかが、直接的には気にかかっていることだ。
でも、もう少し深いところでの直感が、ぼくに、Joseph Campbellのこの作品を手に取らせたのだと、感じている。
自分自身の「準備」がととのったときに、「師」はあらわれる。
そして、「師」は、ぼくのそばで、急かさずに、待っていてくれる。
ぼくは「準備」をととのえている間、あるいは「準備」の一環として、「師」の他の仕事・作品に教えを得てきた。
Joseph Campbellの著作集『A Joseph Campbell Companion: Reflections on the Art of Living』からである。
この著作集のなかに、よくとりあげられる、Joseph Campbellの「言葉」がおさめられている。
それは、「Follow your bliss」と題される、美しい文章である。
Follow your bliss.
The heroic life is living the individual adventure.
There is no security in following the call to adventure.
Nothing is exciting if you know what the outcome is going to be.
To refuse the call means stagnation.
What you don’t experience positively you will experience negatively.
You enter the forest at the darkest point, where there is no path.
Where there is a way or path, it is someone else’s path.
You are not on your own path.
If you follow someone else’s way, you are not going to realize your potential.
Joseph Campbell “A Joseph Campbell Companion: Reflections on the Art of Living” (Joseph Campbell Foundation)
Joseph Campbellは、ぼくに、語りかける。
道のない、森の、最も暗いところにわけいりなさい、と。
他者ではなく、自分自身の冒険をしなさい、と。
そして、それが、「bliss」(歓喜)の生であるということを。
そのような「道のない道ゆき」を歩く際の、ひとつの「同伴者」として、Joseph Campbellの著作は、ぼくの目の前に、今あらわれる。
香港科学館で出会った「古代エジプトのミイラたち」が、Joseph Campbellにつなぐ「導き手」となってくれたのかもしれない。
ユバル・ノア・ハラリ著『Homo Deus』で指摘される、人類の「3つのプロジェクト」の一つ、「bliss/happiness」(歓喜/幸福)。
「技術的な解決の試行」を繰り返す人類の前で、今は亡きJoseph Campbellは、何を語ったであろうか。