「Art for art’s sake(芸術のための芸術)」ということが言われることがある。
芸術が「何かのため」という姿勢を切り捨て、芸術はいかなる実用的な機能からも自由であるということである。
それが「真実であるか否か」ということはさておき、それでも、アート(芸術)は、確かにぼくたちに「何か」を与えてくれるように思う。
近代・現代という時代の磁場が、ぼくたちをして「何かのため」へと、様々なもの・ことを手段化させていく思考と実践に引き寄せているのかもしれないと思ったりもする。
しかし、アートを鑑賞する際に、アートそのものに素晴らしさを感じる背後に、素晴らしいと思わせる原因・理由があるのだとも感じる。
Alain de BottonとJohn Armstrongは、とても美しい著書『Art as Therapy』(Phaidon, 2013)において、「ツールとしてのアート」の側面を正面から見据えている。
感情的知性の発展に寄与するグローバル組織「The School of Life」の共同創業者のひとりである作家のAlain de Botton、それから哲学者John Armstrongの共著である。
美しい絵画や写真が掲載され、詩的な文章で綴られている『Art as Therapy』。
本書では、「ツールとしてのアート」という視点で、「アートの7つの機能」が展開されている。
- Remembering(思い出すこと)
- Hope(希望)
- Sorrow(悲しみ)
- Rebalancing(バランスを取り戻すこと)
- Self-Understanding(自己理解)
- Growth(成長)
- Appreciation(感謝)
それぞれのもう少し詳細については、下記のようになる。
1.記憶の悪さの矯正手段:アートは、経験の果実を、記憶しやすいもの、また再生可能なものとする。
2.希望の提供者:アートは、ものごとを、楽しく元気づけるような視野におさめる。…
3.尊厳のある悲しみの源泉:アートは、よい生活における正統な場所にある悲しみを思い出させる…。
4.バランスをとるエージェント・媒介:アートは、普通でない明瞭さで、良い質のエッセンスをエンコード(記号化)する…。
5.自己理解へのガイド:アートは、私たちにとって中心的で重要だが、言葉にするのがむずかしいことを確認する手助けとなる。…
6.経験の拡張へのガイド:アートは、他者の経験の極めて洗練された蓄積である…。
7.再度鋭敏化させるためのツール:アートは、私たちの殻をはぎとり、私たちの周りのものにたいする、甘やかされ習慣化された無視という地点から私たちを助け出す。…
Alain de Botton/John Armstrong『Art as Therapy』(Phaidon, 2013)
(*日本語訳はブログ著者)
本書では、これらひとつひとつの機能について、掲載されたアートを素材に、アートの仔細を「味わい」ながら、理解していくことになる。
詩的な英語で仔細に語られることで、アートの楽しみ方を、ぼくは学ぶことができる。
「機能」は、アートに言葉を与えることで味気ないものにするのではなく、反対に、アートをより味のあるものとし、確かに「機能」が発揮されていることを感じさせる。
「Art as Therapy」、セラピーとしてのアートの意味合いが、身体にしみてくる。
この美しい著作『Art as Therapy』が語る「アートの7つの機能」は、人それぞれにたいする効能・機能を、抽象度を上げ抽出して語っている。
これらに加えて、ぼくの関心事項にひきつけて加えるとすれば、「アート」は、「世界言語」のひとつとしても機能する。
音楽が世界をつなぐコミュニケーションのひとつであるように、絵画や彫刻などのアートも、世界をつなげることができる。
厳密には(政治経済社会の複雑な経路を通過することで)その逆もありうるけれど、肯定的にとらえていけば、アートは世界をつなげていく。
世界の各地の人たちが、遠く離れたアートを知り、興味をもち、それらについて世界の人たちと会話をくりだす。
その「機能」は、直接的にぼくたち自身のセラピーとなるわけではないけれど、人と人とをつなげていく「機能」として、つながりを回復する。
そのような「機能」としても、ぼくは、アートを学んでおきたいと思う。