香港で、「香港人口予測」(2017年-2066年)から考えること。- 個人・組織・社会の「構想」へ。 / by Jun Nakajima


香港政府が2017年9月8日に、『Hong Kong Population Projections 2017-2066』(香港人口予測 2017年-2066年)を発表した。

「超高齢社会になる」ということはすでにわかりつつ(しかし準備ができていないけれど)、関連することとしてぼくの関心を挙げるとすれば、大きく三つある。

  1. 人口推移における安定平衡的な社会(「高原・プラトー」)
  2. 平均余命(Life Expectancy)に見る、ライフステージの変遷
  3. 香港の企業などの組織と雇用の問題・課題

一つ目は、社会全体の行く末を見晴るかすものとしての全体像であり、二つ目は、人の人生のライフステージを変えてゆく動力のひとつであり、そして三つ目は、組織また個人としての雇用の問題・課題である。

今回の人口予測も、これら三つを考えさせてくれる「予測」となっている。

「数値」は、予測であっても(予測であることを理解しながら)、実際の動向を「見える化」してくれる。

 

今回の「香港人口予測」の数値は、例えば、下記のようだ。

【人口】
・2016年:734万人
・2043年:822万人
・2066年:772万人

【(超)高齢社会:65歳以上の人口】
・2016年:人口の16.6%
・2036年:人口の31.1%
・2066年:人口の36.6%

【平均余命】
・2016年:男81.3歳、女87.3歳
・2066年:男87.1歳、女93.1歳

【労働力】
・2016年:362万
・2019年ー2022年:367万から368万
・2031年:351万
・2066年:313万

 

これらの数値を見ながら、最初の三つについて、簡易に「問題・課題のありか」を書こうと思う。

<1. 人口の推移における「高原」>

人口の推移における「安定平衡的な社会」が、予測の中に明確におさまってきている。

つまり、人口は増え続けるのではなく、安定平衡的な社会へと向かっている。

香港に限らず、世界の先進諸国・地域は、すでにそこへと向かっている。

生物学者が「ロジスティクス曲線」と名づける推移に触れて、社会学者の見田宗介はこの「事実」に注意を向けている。

「ロジスティックス曲線」とは、縦軸に「個体の数」、横軸に「時間の経過」をとる座標軸におけるS字型の曲線である。

成功した生物種は、この座標軸の第I期を経て、第II期に爆発的に反映し、第III期で繁栄の頂点の後に滅亡していく(「修正ロジスティックス曲線」)。

この経路が「S字」をなしている。

哺乳類などの大型植物はより複雑な経路をとるといわれるが、人間という生物種も基本的には、ロジスティックス曲線をまぬがれないといわれる。

 

 1960年代には地球の「人口爆発」が主要な問題であったけれども、前世紀末には反転して、ヨーロッパや日本のような「先進」産業諸国では「少子化」が深刻な問題となった。「南の国々」を含む世界全体は未だに人口爆発が止まらないというイメージが今日もあるが、実際に世界全体の人口増加率の数字を検証してみるとおどろくことに、1970年代を尖鋭な分水嶺として、それ以後は急速かにかつ一貫して増殖率を低下している。つまり人類は理論よりも先にすでに現実に、生命曲線の第II期から第III期への変曲点を、通過しつつある。この時点からふりかえってみると、「近代」という壮大な人類の爆発期はS字曲線の第II期という、一回限りの過渡的な大増殖期であったことがわかる。そして「現代」とはこの「近代」から、未来の安定平衡期に至る変曲ゾーンと見ることができる。

見田宗介「現代社会はどこに向かうか」『定本 見田宗介著作集I」岩波書店

 

この「未来の安定平衡期」が、香港においても、すでに予測された数値で指し示されている。

 

<2. 人生のライフステージ/3. 組織の雇用>

香港の平均余命も、確実に、「100歳」を射程圏内にとらえている。

女性はいよいよ90歳代へと突入していく。

リンダ・グラットンが著書『LIFE SHIFT:100年時代の人生戦略』で述べているように、今成人しているような人ではなく、今生まれたりこれから生まれる世代は「100歳」を生きていく。

伝統的な人生の「ライフステージ」(教育ー仕事ー定年の3サイクル)は、確実に変容していく。

香港の英字紙「South China Morning Paper」は、香港政府の「人口予測」の発表を受けて、「Thinking of retiring at 60? Think again - we’ll work longer, Hong Kong population projection shows」という記事を掲載している。

高齢社会の進展と労働力の減少を、(法的な定年年齢はないが)<定年年齢の(考え方の)見直し>と<高齢者と女性の労働力>で補完していくことが書かれている。

個人の視点からは「ライフステージ」のサイクルは変容していく方向に流れ、組織の視点からはそのような個人を雇用する仕方の変容におされていく。

個人の「生き方」の問題であり、組織の「組織つくり・マネジメント」の問題である。

 

香港の人口予測は、おそらく、これからのテクノロジーの発展(人工知能やIoT、先端医療など)や社会の発展(ベーシック・インカムなど)の可能性については、織り込んでいない。

これらの動きも見据えながら、個人が、組織が、社会が、どのように「未来の安定平衡期」への「移行」をとげていくのかが、今問われるべき問題・課題だ。

ぼくは、これらの大きなテーマを、大きくある必然性の中で一度「全体像」として描きながら、その中で各論(特に生き方や働き方、組織つくりやコミュニティつくりなど)に落としていく方途を、当面の課題としている。

それは、「予測」に生きるのではなく、予測を参考にしつつも、個人や組織や社会を「構想」していくという能動性に生きる生き方である。