「TED Talks」にて、Emily Esfahani Smithが「There’s more to life than being happy」というタイトルで、聴衆に言葉を届けている。
タイトルにあるような大きな内容が12分のプレゼンテーションに凝縮されていて、その凝縮のされようが美しい。
Emily Esfahaniのモチーフは、自身が「幸せを追い求めること」でたどり着いた地点が、「心配とさまよい」の地点であったことである。
そのことは、自分だけでなく、周りの友人たちもそうであったという。
そこで、Emilyは大学院で「ポジティブ心理学」を学ぶことにし、そこから人生をきりひらいていく。
データが示すのは、幸せを追い求めることで、人は不幸せになっていくこと。
アメリカや世界では自殺者が増え、社会の豊かさの見かけに反して、人びとには希望がなく、鬱的で、孤独である。
研究が示すのは、幸せが欠如しているのではなく、「有意義な人生を生きること」の欠如である。
心理学者たちが、「happiness(幸せ)」の定義として「comfort(快適さ)、ease(和らぐこと・楽であること)、feeling good in the moment(瞬間気持ちのよく感じること)」などを挙げることに触れる。
「meaning(意義)」については、心理学者セリグマンに言及し、「意義は自分よりも大きな何かに所属し貢献し、自分の中のベストなものを発展させることから来る」とする。
Emily Esfahaniは、幸せと意義の違いとは何か、また「どのようにしたら有意義な人生を生きることができるのか?」という設問を立てて、研究を重ねていくことになる。
彼女の研究の成果は、「意義の4つの柱」として提示される。
- Belonging (所属感)
- Purpose (目的)
- Transcendence (超越的)
所属している感覚、目的をもつこと、それからいわゆる「フロー状態」のように極めて集中するような状態をもつことである。
Emily Esfahaniは例をあげながら、きわめてコンパクトに話を展開している。
そして、通常人を驚かせるという「4つ目の柱」に触れてゆく。
4. Storytelling (物語)
自分を語ること、自分を物語として語ることである。
ぼくは、驚きというより、「そうきたか、うまいなぁ」と感じた。
「Storytelling (物語を語ること)」については、ぼくも極めて大切にしている。
よりよく生きていくためには、なくてはならない要素だ。
彼女が言うように、人生はイベントのただのリストではなく、人は生きることの物語を編集し、解釈し、言い直すことができる。
それは、とてもパワフルだ。
そして、より正確には、実は誰もが「物語」をもっている。
意図していようがいまいが、程度の差はあれ、「物語」がある。
その「物語」をどれだけ彩ることができるかに、ぼくたちの人生はかけられている。
そのように彩られた物語の例としてEmily Esfahaniがプレゼンテーションの最後に挙げる「物語」に、ぼくは心をひかれる。
哲学者ハンナ・アーレントの著書『人間の条件』のどこかの章の冒頭に、エピグラフとして掲げられている言葉の意味が、ぼくの中に強く残っている。
それは、大体、このような言葉だ。
「どんな悲しみでも、それを物語に変えるか、それについて物語れば、耐えられる。」
その言葉は、例えば、西アフリカのシエラレオネで内戦の傷跡が圧倒的な風景で、ぼくの中に思い起こされた。
東ティモールでも、同じだった。
だから、「プロジェクト」という形での国際支援であれ、ぼくはそこに「物語」を組み込みたかった。
言葉に尽くせない「悲しみ」の風景の中で、かすかであっても、関わる人たちの中に「希望の物語」が育まれていくことを願って。