香港文化博物館では、2013年7月20日から2018年7月20日の5年にわたって、ブルース・リー展『Bruce Lee: Kung Fu・Art・Life』が開催されている。
ブルース・リー(Bruce Lee、李小龍)は、言わずと知れた、武道家であり映画俳優である。
香港に住んでいてブルース・リーを普段身近に感じることはあまりないけれど、香港と言えばブルース・リーとも見られ、香港の顔でもある。
1940年にサンフランシスコで生まれたブルース・リーは、香港で育った。
それから、18歳でアメリカに渡り、勉学と武道に傾倒していくことになる。
その後アクションスターとなったブルース・リーは、1973年に32歳の若さで他界したが、今でも、多くの人たちを魅了してやまない。
ブルース・リー展『Bruce Lee: Kung Fu・Art・Life』では、600点以上もの展示物を陳列し、ブルース・リーの人生の軌跡を追っている。
ブルース・リーが着た「黄色いトラック・スーツ」、ブルース・リーが使ったヌンチャク、数々の写真などなど、ブルース・リーのファンにとってはたまらない展示となっている。
また、ブルース・リーのファンでなくとも、そこに、人を魅了してやまない人物が生きてきた人生の軌跡と魅力を見ることができる。
ブルース・リーという「ひとりの生」の物語が、そこで語られている。
渡米したブルース・リーが「哲学」を学んでいたことなど、ぼくはまったく知らなかったから、それだけでもぼくの興味を引くものであった。
アクションスターというイメージからは程遠い哲学ということに、しかし、ブルース・リーという人物を重ね合わせながら、それもわかるような気もした。
そして、ぼくが興味を持ったのは、ブルース・リーの「直筆の文字」であった。
「直筆の文字」に、ぼくは魅かれる。
そこに、その人の生が浮かびあがるような気がする。
同博物館の展示『八代帝居:故宮養心殿文物展』(2017年6月29日ー10月15日展示)においても、ぼくは中国の清代の乾隆皇帝が手書きで書いた文字に魅かれる。
手書きの文字を心の中でなぞりながら、そこに、その人の気持ちを読みとる。
ブルース・リーの几帳面な文字は、ブルース・リーの人となりを物語っている。
手書きの文字の中で特に興味を引いたもののひとつは、彼の「武術トレーニング」のメモだ。
メモには、詳細に、トレーニングの仕方が記載されている。
毎日決められたスケジュールにしたがって、たんたんとトレーニングを積んでいくブルース・リーの姿が見えるようだ。
この積み重ねが「ブルース・リー」をつくってゆく。
それから、武術を教えるために(確か)スイスに出張していたブルース・リーが、リンダ夫人に宛てた手紙に、ぼくは魅かれる。
そこには、「ナイトクラブなどには興味なく、リンダのことを考えている」旨が書かれている。
ブルース・リーのリンダ夫人への「配慮」に、ぼくは学ばされる。
それが、「直筆の文字」だからか、気持ちが伝わってくるようだ。
ぼくは、「直筆の文字」とその行間に、ブルース・リーの姿と心情を感じる。
ところで、ブルース・リーの令嬢である「シャノン・リー」が、現在「Bruce Lee Family Company」を運営していて、Podcast『Bruce Lee Poscast』(英語)を世界に向けて届けている。
Podcastは、ブルース・リーの生と哲学からの学びを届けている。
53話(2017年7月6日発信)は、「Meaning of Life」(人生の意味)と題されている。
ブルース・リーは、人生の意味について、「The meaning of life is that is to be lived.」と述べていたという。
シャノン・リーは、こう付け加えている。
What he means by this is that life is meant to be engaged with, present in, taking action toward; it is not to be conceptualised or only thought about, but actually participated in.
(この言葉で彼が言おうとしていることは、人生というのは、関わるものであり、そこに在るものであり、それに向かって行動をするものである。人生は、概念化されるものではないし、またただ考えるものでもなく、実際に参加するものである。)
Podcast『Bruce Lee Poscast』「Meaning of Life」
また、ブルース・リーは、「water(水)」(の流れ)を人生のメタファーとしていたことに触れ、さらにこう付け加えている。
Living exists when life through us - unhampered in its flow….
(人生がその流れを妨げられずにわたしたちを通過するとき、生きることは在る。)
Podcast『Bruce Lee Poscast』「Meaning of Life」
ブルース・リーは、哲学を学んできたことからも推測されるように、けっして考えなかったわけではないし、誰よりも考え、学ぶことを生きてきたはずだ。
しかし、ブルース・リーは、人生を生きるというより、<生きるということに生きてきた>ということである。
人生というものがあってそれを生きるのではなく、水のように流れる生そのものに内在して生きてきたということだ。
そして、シャノンが繰り返し述べているように、その流れのなかで、学び続け成長していくことを、ブルース・リーは生きた。
展示にあった「直筆の文字」も、そのようなブルース・リーの一面を確実に語っているように、ぼくには見えた。
人生「を」生きるのではなく、人生をぼくたちに「通過」させること。
そのときに、人生は、ぼくたちが思いもしなかった仕方で、ぼくたちの前に現れるのかもしれない。
ブルース・リーの生がそうであったように。