NASA「InSight」の火星着陸に触発されて。- 「宇宙」への視線と視界。 / by Jun Nakajima

NASAの「InSight」が見事に、火星に着陸し、最初の画像を地球におくってきた(人類の歴史で8度目の火星着陸である)。

「InSight」の火星着陸後、NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)にエンジニアとして勤務する石松拓人が「1億5000万Kmも離れたリアルタイム通信も不可能な場所に 時速2万Kmで突っ込む360Kgもの剛体を全自動で安全に降ろす ってマジ天才集団だわ」とツイートしたように、偉業の極みである。

その着陸の「むつかしさ」は「The 7 Minutes of Terror」という言葉に凝縮され、時速2万Kmで飛翔しながら地球ほどの大気圏をもたない火星に突入していくことの困難さが語られている。

その困難をのりこえ、「InSight」が火星に着陸。着陸直前、NASAのミッション・コントロールで成り行きをみまもる人たちの表情と雰囲気は、緊張とエキサイティングさに包まれていたのが、ぼくには、とても印象的であった。「天才」たちの表情と雰囲気に、まるで「子ども」の、どこまでもひろがる関心と興奮をみたような気がしたのだ。

これから「InSight」は、火星へ人をおくりこむことも見据えながら、火星の「内部(interior)」の探査にはいってゆくことになる。


「InSight」の火星着陸に触発されて、「宇宙」のことを書こうと思う。ぼくたちの「生活」はこの地球の日々のなかにあるのだから、はるか彼方の宇宙のことなんか関係ない、などと思うまえに、今の時代において「宇宙」に焦点をあてたい。

「この世界を生きつくす」ために、ぼくは「宇宙」の視点も大切だと思う(ぼくがただ「宇宙」が好きなことも大きく影響しているけれども)。

いろいろと書くことはあるのだけれども、「InSight」の火星着陸を契機として、今回は、以前書いたブログ「「火星」を起点に、現実として宇宙を視野に。- Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』。」を再録しておきたい。

宇宙のなかで、ぼくが「火星」により興味をもつことになった本、Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』。」について書いたブログである。


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ぼくの構想のひとつである「時間と空間の『人と社会』学/「生き方」学」(仮名)。

その「空間」の座標軸は、ひとまずは「グローバルへの広がり」を視野に入れながら、しかし、その先には「宇宙空間への広がり」を見据えている。

「そんなに大きな話を」という声に対しては、SpaceX社のElon Muskは「火星移住計画」を着実に進めているし、2030年代前半頃の実現見通しも言われている。

「仮説」や「妄想」は、確実に「現実」に向かっている。


その「現実性」を感じさせてくれた書籍のひとつに、Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』(TED Books, 2015)がある。

『私たちはいかに火星に住むのか』。

この書名は、二重の意味において「正しい」。

第一に、どのように火星に「到達」するかではなく、「住む」のかということについて書かれていること。

第二に、「どのように」住むのか、という具体性において書かれていること。

この二重の意味が、人が火星に降り立つ日が「目前」であることを伝えている。


【Contents(目次)】

Epigraph
Introduction: The Dream
Chapter 1: Das Marsprojekt
Chapter 2: The Great Private Space Race
Chapter 3: Rockets Are Tricky
Chapter 4: Big Questions
Chapter 5: The Economics of Mars
Chapter 6: Living on Mars
Chapter 7: Making Mars in Earth’s Image
Chapter 8: The Next Gold Rush
Chapter 9: The Final Frontier
Imagining Life on Mars


「The Dream」と題されるイントロダクションは、「予測的な物語」で始まる。


A Prediction: 
In the year 2027, two sleek spacecraft dubbed Raptor 1 and Raptor 2 finally make it to Mars, slipping into orbit after a gruelling 243-day voyage. As Raptor 1 descends to the sufface, an estimated 50 percent of all the people on Earth are watching the event, some on huge outdoor LCD screens…

ひとつの予測:
2027年、流線型の宇宙船Raptor 1とRaptor 2が、いよいよ火星に到達する。宇宙船は243日の旅ののちに、火星の軌道にはいっていく。Raptor 1が火星の地表に向かっておりていくところ、地球の50%にあたる人びとがこのイベントを見ている。屋外のLCD巨大スクリーンで見ている人たちもいる。…

Stephen L. Petranek著『How We'll Live on Mars』(TED Books, 2015)(※日本語訳はブログ著者)


それは、現実に見ているような錯覚を、ぼくに与える。

映画『The Martian』(オデッセイ)の風景が、ぼくの記憶の中で重なる。

このようなイントロダクションに始まり、Stephenは、火星への有人飛行と移住が技術的に可能であることなどを、具体性の中で語る。

Stephenは、Elon Muskが移住計画の全体の妥当性について、「環境的な障害」ではなく、「基本コストの課題」として見ていることに、注意を向ける。

火星移住は、火星における空気、放射線、水などの問題・課題よりも、コストが課題だということだ。

もちろん空気や水などといった、人間の生きる条件ともなる環境要因は大切である。

しかし、この本においても、それらの問題・課題を、具体性の次元において(一般読者向けに)語っている。

火星移住のシナリオが具体性の中で語られ、最初で述べたように、いかに火星に到達するかということではなく、焦点はどのように住むのかという方向に重力をもつ。

読み終えると、火星移住が現実のものとして感じられるから不思議だ。


そして、ぼくが驚いたのは、「Chapter 8: The Next Gold Rush(次なるゴールド・ラッシュ)」という章で展開されている内容だ。

それは、火星の「その先」にあるものだ。

火星と木星の間にある小惑星帯には、鉱石資源がある。

NASAによると、その価値は「今日の地球のすべての人が1000億ドルを持っていること」と同等だろうと言われる。

資源問題という「グローバリゼーション」の行きつく現問題を、ある程度解決する方途を、宇宙資源はひらいていく可能性がある。

そして、グローバル企業はすでにその「ビジネス」に参入している。

地球と小惑星帯の間に位置する火星は、この方途における「基地」のような役目を果たす可能性があるのだ。

それは先のことかもしれないけれど、実はそれほど遠くない未来の話だ。

準備は進められていて、実際の小惑星における鉱石発掘の試験などは2020年代前半頃ということも、この書は触れている。

地球という「有限の空間」、グローバリゼーションというプロジェクトの行き止まりの空間が、その先に「無限の宇宙空間」をきりひらいていくその仕方と、人と社会への影響を、ぼくは追っている。

宇宙を視野に入れることは、すでに現実問題として、ぼくたちの前に立ち現れている。


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資源問題という「グローバリゼーション」の行きつく現問題を、「ある程度解決する方途を宇宙資源はひらいていく可能性があること」については、別の視点を、ぼくの「師」、見田宗介先生の新著から学んだことを付記しておきたい(ブログ「テクノロジーによる「環境容量」の拡大の方向性について。- 見田宗介による「環境容量の拡大と人間の幸せ・不幸せ」の考察。」)。

そのトピックをひとまずに脇においたとしても、それでも、「火星」にひかれる。火星に人が着陸する日を想像して、ぼくの心は踊る。

NASAのAdministrator、Jim Bridenstineは「The best of NASA is yet to come, and it is coming soon.(NASAのベストはまだこれからだ。それはいずれやってくる)」と語っている(*CNNの記事「NASA’s InSight lander has touched down on Mars」)。

NASAのミッション・コントロールが、笑顔と歓声でふたたびあふれる日は、そう遠くない。


追記:「写真」は火星ではなく、香港の夜空にあらわれた「金星」。2018年夏に撮影。