ブログ(2017年9月12日)「香港で、「香港人口予測」(2017年-2066年)から考える。- 個人・組織・社会の「構想」へ。」で、香港政府が発表した『Hong Kong Population Projections 2017-2066』(香港人口予測 2017年-2066年)をもとに、香港の人口予測について、巨視的な視点をふまえて少しのことを書いた。
香港の人口ということに別の角度から光をあてるものとして、香港家庭計画指導会(The Family Planning Association of Hong Kong)が2018年12月4日に『Family Planning Knowledge, Attitude and Practice in Hong Kong Survey 2017』(2017年香港家庭計画知識、態度及び実行調査)(報告書は中国語のみ)を発表した。
この調査は、1967年に開始され、五年に一回の頻度で、香港で行われてきたもので、15歳から49歳の既婚・同居の女性とパートナーを対象としてきたものだ。2017年8月から2018年6月にかけて行われた今回の調査は第11回目の調査となり、1,514名の女性と1,059名のパートナーから回答を得たという(※前傾の「調査報告書」より)。
この調査報告書の結果について触れていたメディアのひとつ、SCMP(South China Morning Post)が大きく取り上げていたポイントは、香港の女性の15%ほど(正確には14.6%)が子供が欲しいかどうか(子供が欲しいか/さらなる子供が欲しいか)について「未決定」であるということ、この数値がここ30年来で最も高い数値であることである。ちなみに、前回の2012年度調査では、この「未決定」の回答は10.1%であった。
この数値はこの質問の全体(また他の質問、さらには他年度の結果)を含めて理解する必要があるが、この質問の他の回答は、「子供が欲しい/さらなる子供が欲しい:15.3%」(2012年度調査では20.2%)、「子供が欲しくない/さらなる子供が欲しくない:67.4%」(2012年度は63.8%)、「わからない:2.7%」(2012年度は5.5%)である(※なお、2012年度以前との数値比較も見ておくこと必要がある。「子供が欲しくない」の数値はそれ以前は結構高い数値を示していたなど)。
理由としては、SCMPでも焦点があてられているとおり、「経済的負担」が大きいことが挙げられている。経済的負担は香港に限らない要因のひとつだけれど、やはり直接的に聞いたりすることである。
ここでは、何かの「結論」をみちびくのではなく、社会の<微視的な視点>において、そのような傾向が出てきているということにとどめておきたい。また、このような<微視的な視点>については、この調査結果に限らず、香港の日常で、直接的にあるいはさまざまな媒体を通じ、さまざまな「個別の事情」を聞いたり、読んだりすることができるものもある。
ぼく自身の関心としては、<微視的な視点>とともに、<巨視的な視点>とをあわせながら、人と社会の動向を捉えてゆくことである。ここでの<巨視的な視点>の理論的基礎は、人口の動態を巨視的な目で見る「S字曲線」、あるいは生物学でいう「ロジスティックス曲線」(また「修正ロジスティックス曲線」)である。「S字」というのは、「S」がちょうど右に傾くように、人口の動態を描くことができる、つまり時間の経過とともに(人口爆発期のあとに)減少傾向に転じてゆくのである。
「S字曲線」という現象を現代社会の理論の基礎として最初においたのは、『孤独な群衆』(1950年)のリースマンであったと、社会学者の見田宗介は書いている(『社会学入門』岩波新書、2006年)。「S字曲線」の理論にかんするリースマンの限界のひとつは、明確な統計的数値を提示できなかったことがひとつであったが、「現実」はというと、リースマンの著作から20年後くらい(1970年代)から、アメリカ、ヨーロッパ、日本、韓国など、高度産業化をとげた社会で、人口増加率の減少が実現されてきていると、見田は指摘している。
見田宗介は、さらにつぎのように書いている。
地球人口の全体を見ると、21世紀初頭の現在、未だ近代の「人口爆発」の初期あるいは中期の段階、あるいはそれ以前の段階にある地域も多いから、その全体を合成してできる曲線は、今もなお高度成長期中であるように見える。けれどもいっそう注意深く見ると、その「傾斜角」、つまり増加の率そのものは、あの1970年という時期を境に、明確な減少を開始している…。地球の人口増加率が年率二%をこえていたのは、1962年から71年のちょうど10年間だけである。
つまり地球を総体として考えてみたばあいにも、この1970年前後という「熱い時代」を変曲点として、人間の爆発的な繁殖という奇跡のような一時期は、すでにその終息に向かう局面に入っていると考えていい。見田宗介『社会学入門』(岩波新書、2006年)※なお一部年数表記を変更
このように、とても大きな<巨視的な視点>から見ると、このような傾向が見てとれるのであり、日本はもちろんのこと、ここ香港も、地球全体の歴史的な局面のなかで、状況を分析してゆく必要があると思う。
はじめのところで見た『2017年香港家庭計画知識、態度及び実行調査』結果は、そのような人口の動態における、<微視的な視点>のさまざまな局面や傾向の一端を示すものであるかもしれない。「経済的負担」は現実問題として大きな要因であるけれど、それだけに限るものではないし、もう少し広い視野で見るべきものと、ぼくは考える。