職場における「物語」の適用と方法と有効性について、豊田義博が著書『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?ー職場での成長を放棄する若者たち』(PHP研究所)で、背景を含め、実践におとせるところまで具体的に書いている。
ぼくのメンターである方からその存在を教えられた本書は、「物語」を職場での実践へ接続することにおけるヒントがさまざまに提示してくれる。
「20代が、生き生きと働ける次世代社会の創造」を使命とする著者の豊田義博が、キーワードとして挙げているのは、次の4つである。
● 社会とのつながり
● 問いかけ
● 物語
● 環境適応性
どれもがぼくの関心とつながり、またそれぞれのキーワードは相互に連関するものであるが、ぼくの当面の(そしておそらくずっと続いていく)フォーカスとして、生きるということの「物語」がある。
本書は、若手が生き生きと働けるようにするための「マネジャーへの処方箋」として、「物語・ストーリー」のエッセンスを、次のように取り入れた方法を提示している。
1) キャリアインタビュー
2)「仕事の型」づくりにつながる3つのプロセス:「初期設定の工程」「実践の工程」「成果検証の工程」
豊田が土台のひとつとして置いている考え方は、「批判的学習モード」と呼ばれる学習モードである。
モードを、下記に示される「手段探索モード」から他のモードへと変換をしていくことが提示されている。
● 手段探索モード:自分の置かれている状況を所与とし、指示が出ると、その手段や方法をすぐに考える思考回路
● 目的合意モード:指示が出ると、その目的は適切かなど、背景や考え方に戻って、目的を批判的に考え直す思考回路
● 背景批判モード:目的設定の背景と考え方を批判的に考え直す思考回路
この「批判的学習モード」を活かすことで、若手社員が入社後に(多くは幻滅をともなって)みにつけてしまっている思い込みや先入観(豊田は「フィルター」と呼ぶ)をはずすことを、豊田義博はすすめている。
1)キャリアインタビュー
そのとっかかりの方法として豊田義博が提示する「キャリアインタビュー」では、若手社員がどにょうに会社に出会い、どのように好感をもち、どのような期待をもって入社したのかを聞いていく。
若手社員にこのキャリアインタビューを行うことで、フィルターをかけてしまう前の認識に気づく機会を提供する。
そのプロセスで「自己発見をもたらす四つの質問」として、豊田は次の4つを挙げて、言い回し例も含めて提示している。
● 経験が「広がる」質問
● 経験が「結びつく」質問
● 経験の「見方が変わる」質問
● 経験が「統合される」質問
このインタビューには、このプロセスで若手社員は「物語」を語ることになること、その物語を通じて現時点でのものの見方や考え方の良し悪しや偏りを気づかせることが、大きな目的として置かれている。
2)「仕事の型」づくりにつながる3つのプロセス:「初期設定の工程」「実践の工程」「成果検証の工程」
本書よくふれられる「仕事の型」(=基礎力の自分流コーディネーション)をみにつけていくことが大切とされ、その原型は最初の3年で出来上がっていくものとされる。
その「仕事の型」をつくっていくことにつながるプロセスとして、「初期設定の工程」「実践の工程」「成果検証の工程」の3つのプロセスがある。
目の前の仕事の先に「顧客や社会」とのつながりが見えていない状況の若手社員のために、3つのプロセスを通じて、経験学習を促進していくことになる。
そのひとつ目の「初期設定」のポイントとして、豊田義博は次のように書いている。
ポイントは、この工程において、その仕事の主役は、彼・彼女であり、彼・彼女がいい仕事をすることで、顧客が喜ぶ、というストーリーを、彼・彼女の頭の中に想起させることです。
繰り返しになりますが、仕事は、マネジャーであるあなたから、メンバーである彼・彼女へのアサインによってスタートします。あなたは、必要な情報をいろいろと語り、彼・彼女に仕事の概要を伝え、わかってもらおうとするでしょう。しかし、このようなレクチャースタイルは、一つ間違うと、その仕事の主役はあなたであり、彼・彼女はその主役がいい成果を出すためのわき役であるという認識を強く植え付けてしまいます。
豊田義博『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』(PHP研究所)
豊田義博自身の「使命」とする「20代が、生き生きと働ける次世代社会の創造」は、方法論的に「20代」にフォーカスする仕方で追及されている。
本書のひとつの特異性のひとつに、若手社員に接するマネジャーへのアドバイスに限らず、第5章で「若手社員への処方箋」として若手社員へのアドバイスが展開されていることが挙げられる。
人それぞれが、それぞれに、物語をきりひらいていこうとするところに、新たな物語はひらかれていくのだということでもある。
それは、根底的には「20代が」というよりは「20代も」というところであり、さらにはどの世代にとっても「生き生きと働ける」ことがつくられるところに、ほんとうの「生き生き」が創造されてくるように思われる。
その視点からは、人それぞれが、「物語」をどれだけ生きているのか、ということが大切であるように思われる。
そして、その「物語」は、仕事だけでなく、<生きることの物語>である。
時代も世界も、働くこと(ワーク)と生きること(ライフ)が相反する仕方ではなく、密接につながり、また統合されたりするような動きを見せてきている。
その意味においても、<生きることの物語>をどのように生き、語り、紡いでいくことができるのかが、若手に限らず、どの世代においても、とても大切なこととしてぼくたちの前に現れているように、ぼくは思う。