海外へ旅したり、海外に住んでいくうえでは、じぶんの「出身地」を語れるようにしておくことの大切さを、ぼくは経験から学んできた。
ぼくの感覚として、以前は、海外にいるとき「どこから来たんですか?」と聞かれて、「日本から来ました」と応答すれば、比較的多くの場合、それでいったんその話題は終わった。
しかし、最近は、ここ香港に住んでいると、日本に旅行で行く人たちがたくさんいるからか、「日本のどこの出身ですか?」ということを聞かれる。
香港の方々のなかには、ぼくよりもはるかに頻繁に日本に行く人たちもいるし、またぼくが行ったこともないような日本の地方を旅している方々もいたりして、「日本から」ということだけでなく、「日本のどこから」ということが、話題としてあがってくることになる。
出身地が「東京」や「大阪」、あるいは「北海道」や「沖縄」であれば、それだけを語れば、おおよそわかってくれるのであるけれど、ぼくの出身は「静岡県浜松市」である。
「静岡」と「浜松」という地名だけでは海外の方々はイメージがわかないから、ぼくはそこにキーワードを加えていくことになる。
まずは、「場所」からだ。
東京と大阪はよく知られているから、ぼくは「東京と大阪の中間にある」ことでイメージをつけてもらう。
そこに、浜松からは若干距離があるけれど、静岡県は「富士山」があるところだとも伝える。
会話のなかでは、場所の正確性が求められているのではないから、浜松から富士山の距離は問題ではないと思う。
「場所」のイメージを持っていただいてから、ぼくは「浜松」にまつわるキーワードを加えていく。
ぼくが挙げるのは、ホンダ、ヤマハ、スズキ、である。
「ホンダ、ご存知でしょう?」
「それから、ヤマハ、ご存知ですね?」
「スズキも、ご存知ですね?」
ここまで来れば、ここ香港に限らず、世界のいろいろなところでも、ぼくがどんなところから来たのかを知っていただけることになる。
繰り返しになるけれど、詳細の正確な情報ではなく、海外の人たちとの共通の情報や話題を通じて<つながり>をつくっていくプロセスである。
ここ香港では、これらのキーワードに加えて、最近は「キャプテン翼」が加わった。
漫画「キャプテン翼」は、ここ香港でよく知られている。
キャプテン翼の南葛小は、設定上は「静岡県」にあることになっている。
だから、ぼくはキャプテン翼の大空翼と同じ県から来たのです、と伝えることになる。
日本の漫画は、海外でも、<つながり>をつくってくれるのだ。
それから香港のショッピングモールで、ぼくは、ハッとした。
「ちびまる子ちゃん」を忘れていたと、「ちびまる子ちゃん」のキャラクターを見つけて気づいたのだ。
香港で人気の「ちびまる子ちゃん」。
漫画「ちびまる子ちゃん」の舞台は、静岡県清水市であった。
「キャプテン翼」や「ちびまる子ちゃん」など、日本の漫画のキャラクターと同じ場所(静岡県)の出身であること(そしてそのことを語ること)は、ある意味、バカバカしいことであるかもしれない。
しかし、それらを通じて、ぼくは、海外の人たちとの<つながり>をつくっていくことができる。
ぼくは、それでいいのだと、思う。