人工知能(AI)が日常の会話のなかにも、現実にも浸透してきているなかで、人工知能のモデルは「男性脳」なのか、「女性脳」なのかという問いに、視点を得ることになった。
1980年代、人工知能の創生期において人工知能エンジニアであり、現在は人工知能研究者であり脳科学コメンテーターである黒川伊保子の著作、『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナルe新書、2017年)を読んでいて、「確かに、その問題はあるなぁ」と、気づかされたのだ。
男女脳は、違う。
初めて、そのことを知った日の衝撃を忘れられない。
人工知能エンジニアである私に、それは重くのしかかってきた。ーー私たちが目指す「人工の脳」は、いったい、どちらの脳を目指しているの?
黒川伊保子『女の機嫌の直し方』集英社インターナショナルe新書、2017年
当時は、人工知能研究の最前線には男性しかおらず、研究者たちは男性脳=ヒトの脳と信じていたと、黒川伊保子は振り返っている。
人工知能の創生期以後、「人工知能」の研究も言葉も読者にはひびかないから、「脳科学エッセイ」として、黒川伊保子は本を出してきた。
そして、ようやく「人工知能」が脚光を浴びる現在、このキーワードと共に、男女脳を語ることができるようになる。
ぼくは、それら黒川伊保子の「脳科学エッセイ」という形の本などで、じぶんの考えの及ばない「女性脳」にふれて、学ぼうとしてきた。
脳が違うから、学んでも学んでも、幾度も幾度も、失敗をかさねてきている。
そんなとき、ぼくは、やはり、黒川伊保子先生の本をひらいて、男性脳らしく「問題解決」をこころみるのだ。
女性に接するときに、最も気に留めておいてほしいこととして、「とにかく共感」ということを、黒川伊保子は幾度も伝えてくれている。
「いきなり問題解決」ではなく、「とにかく共感」。
例えば、女性たちが「カワイイ~」と口にするとき、男性脳の男性は「何がカワイイのかわからない」と言ってしまったりして、対象物を「評価」しようとしてしまう。
しかし、女性たちの「カワイイ~」は、「心が動きました~、あなたも動いた?」というほどの意味であるという。
そのようにいろいろにアドバイスをしてくれる黒川伊保子は、「脳の性差」がやがて失われるかもしれないとも書いている。
言語スタイルはインターネットによってゆるやかに統一されてきていること、都市化の進展と「生殖ホルモン分泌の緩慢さ」などにより、脳の性差が失くなっていくかもしれないというのだ。
脳の性差がなくなった場合、生物学的に「原型」である女性脳に統一が進んでいくだろうということも付け加えている。
そうすると、例えば、おしゃべり上手な優しい男たちが増え、無骨で一途な男たちが、この世から消えてしまうことになることを想像しながら、黒川伊保子は、女にとって、それは幸せなことだろうかと自問している。
…私は寂しいなぁ。私は、私の傍にいる男たちが、必要なときに必要な言葉を言えず、ほんの少し私をいらだたせる感じが好き。そうして、私がちょっと冷たくしたら、ちょっとビビって機嫌をとってくれる、あの感じがたまらない。男たちが無骨じゃなかったら、人生は、うんとつまらない。
この本を必要としてくれる男がいる以上、男らしい男性脳は、まだこの世に存在するということでもある。この本の読者に、心からの愛とエールを贈りたい。
黒川伊保子『女の機嫌の直し方』集英社インターナショナルe新書、2017年
黒川伊保子先生の本を、いつでも開くことができるようにしているぼくは、こうして、黒川伊保子先生の「心からの愛とエール」を受け取りながら、脳の違いに向き合い、そのミゾに対峙している。