脳科学コメンテーターの黒川伊保子先生には、教わってばかりだ。
女性脳のこと(また男性脳のこと)については、じぶんの「頭のなか」を一生懸命にさがしたり、かんがえたり、いろいろしてみても、そもそもの「構造と機能」の違う脳であるから、やはりよくわからない。
だから、まずはひたすら教わって、学ぶことである。
女性の機嫌を直すには、これはもう、真摯に謝るしかない。ほとんどの男性がそのことを知っている。なのだが、ほとんどの男性が、謝り方を間違っているのである。
…
女性に謝るときは、彼女の気持ちに言及して謝る。これが基本形。
黒川伊保子『女の機嫌の直し方』集英社インターナショナルe新書、2017年
例えばの状況として、女性との待ち合わせに遅刻し、携帯電話でも連絡がうまくとれず、20分待たせてしまったような場合。
ほとんどの男性は、「ごめんごめん、部長に呼び止められちゃって」というように、遅れたことの理由を語る。
このように謝ってはいるのだけれど、謝り方が間違っているという。
大切なことは、この女性の「“二十分”の気持ちを慰撫すること」なのだと、黒川伊保子は書いている。
…「寒かったでしょう?(暑かったでしょう?)(心細かったよね?)、ごめんね」が正解。「あなたのような人を、こんなところに二十分も待たせて、どうしよう」なんて言ってくれれば、遅れてきた理由も聞きやしない。
女性脳は、遅れてきたという結果よりも、心細い思いをした経過のほうに、ずっと重きが置かれている。男性脳は、結果重視なので、彼女がたとえ遅れてきても、走ってきてくれて、満面の笑みを浮かべてくれれば、それでよしとするのだが、プロセス重視の女性脳は、そんなわけにはいかない。
黒川伊保子『女の機嫌の直し方』集英社インターナショナルe新書、2017年
ぼくが思うのは、このように読んでいるときは理解はできるのだけれど、いざ同様の場面になって、じぶんの頭で謝り方をかんがえても、いつのまにか「男性脳」の構造と機能につられてしまう。
そのようにして頭に浮かび、「よかれ」と思って言った言葉が、相手を怒らせたり、傷つけてしまったりする。
そのことを乗り越える方法は、徹底して女性脳(あるいは男性脳)の構造と働きをじぶんのなかにインストールすることである。
しかし、これがとてもむずかしかったりする。
だから、ひとつの方法は、いくつもの場面に合うような「セリフ」を覚えておくこと、そして実際にセリフを語っていくことである。
「セリフ力」をつけていくのである。
黒川伊保子も、「セリフだけでいいから言うこと」をすすめている。
当然のことながら、セリフに「気持ちがこめることができない」という疑問もあげられる。
そんな疑問を抱く男性に対して、黒川伊保子は次のように、アドバイスしている。
それに、ことばは心を連れてくる。
ある男性が、私に「僕は、共感もしてないし、申し訳ないとも思っていない。だけど、先生はセリフだけでいいから言えと言う。心のないセリフを言われて、女性は嬉しいのでしょうか」と言ったことがある。
「心にないセリフでいいの」と私は言った。「でもね、その優しいことばに、奥さまがほろりとして笑顔になったら、あなたはきっと言ってよかったと思うはず。あとから、優しい気持ちが追いかけてくる。それで十分」
男女のミゾは深くて、相手に「自分の脳の中にあるような真実」を求めようと思ったらあまりにも空虚な関係になる。けれど、この男女のミゾは、意外に幅が狭くて、ことばの橋が懸けられる。…
黒川伊保子『女の機嫌の直し方』集英社インターナショナルe新書、2017年
「ことばは心を連れてくる」、とても素敵なことばだ。
プライベートでも、仕事でも、「セリフ力」をつけていくことで、セリフはぼくたちの強い味方になってくれる。
男性脳と女性脳の「悪循環」はいったんそれがまわりだすと、それぞれの構造と機能が違うだけに、ループをどこかで止めることがむずかしくなってしまう。
そのようなループを止めるとき、セリフは、ぼくたちを助けてくれる。
たとえ最初のうちは「心」がこもっていなくても、ループがとぎれて、そこに暖かな光がうまれるとき、しぜんと、「優しい気持ちが追いかけてくる」のだ。
そう、ことばが、心を連れてきてくれる。