榎本英剛著『本当の自分を生きるー人生の新しい可能性をひらく8つのメッセージ』。- <問いを生きる>こと。 / by Jun Nakajima

日本でのコーチングの第一人者である榎本英剛氏の著作『本当の自分を生きるー人生の新しい可能性をひらく8つのメッセージ』(春秋社、2017年)を読む。

本書は、表紙カバーの袖に書かれるように「コーチングの第一人者が伝える、よりよく生きるための指針」である。

著者の「生きるという経験」からしぼりだされてきた/浮かび上がってきた<8つのメッセージ>を骨格として、著者自身の「小説より奇なり」の半生の物語を協奏させながら、書かれている。

 

下記は「目次」であるけれど、それぞれの「章」が、<8つのメッセージ>のひとつひとつにあてられている。

【目次】

はじめに
第一章 理由なく自分の中から湧いてくる「内なる声」は天からの贈りもの
第二章 シンクロニシティはその人が進むべき道を指し示す道しるべ
第三章 流れに乗ると、思いがけない形で人生の扉が開かれる
第四章 人生で起こることには、すべて意味がある
第五章 正しい答えを求めるより、正しい問いを持つことが人生を豊かにする
第六章 人は誰しも、何らかの目的を持って生まれてくる
第七章 理由があるから行動するのではなく、行動するから理由がわかる
第八章 これまでやってきたことは、すべてこれからやることの準備である
おわりに

 

それぞれの「章」は、上述の<キーメッセージ>が冒頭に付され、「エピソード」と「キーメッセージの解説」から構成されている。

 

本の表紙に描かれた「円」、8つの方向性(指針)を包摂する円は、ぼくに「曼荼羅(マンダラ)」を思い起こさせる。

ちょうど、心理学者カール・ユングについて読んでいて、カール・ユングが、自身の精神的な危機を乗り越えようとするときに(歴史上の東洋の曼荼羅の存在を知らないままに)描いた「曼荼羅」を見ていたから、そのイメージと重なったのであった。

とはいえ、それはぼくの勝手なイメージである。

「あとがき」で記されているように、<8つのキーメッセージ>は「一つのシステム」であることが、「円」が示すイメージとつながっている。

「一つのシステム」におけるそれぞれの要素が相互に交響し、補強し、展開させることをとおして、円の中心に「本当の自分」を現出させる。

そして、「本当の自分」は、円がどの方向にも開かれているように、どこまでも外部にもひらかれてあるのだ。

 

「円環」ということでは、時系列的に並べられている<8つのメッセージ>とその背後にあるエピソードは、生きるということの、なんどもなんども繰り返す「行路」のようでもある。

じぶんの「内なる声」にひかれながら、「シンクロニシティ、流れ、人生で起こること」と書かれるような事象に出会い、「問い、目的、行動と理由」などの<じぶんの内面>に往還し、そうして、「これまでやってきたことは、すべてこれからやることの準備である」と書かれるように、生きることの行路にふたたびやってくる。

メッセージを実践するにあたっては「順番」はないと書かれているけれども、そのような「円環」のイメージをぼくは思う。

それは一回限りの円環ではなく、ぼくたちの人生のなかで、いくどもいくども円環する、そのような道ゆきである。

 

ところで、ぼく自身にひきつけて読むときに面白かったのは、コーチングという仕事から入った榎本英剛の人生は、「個人」と向き合うことから、やがて「組織」、「地域」、「一般市民」という仕方で開かれていったこと、そしてぼくの仕事と関心は、それとは逆の仕方で、「一般市民」と「地域」、やがて「組織」、それから関心としの「個人」というように焦点をしぼってきていることである。

そうして、榎本英剛の仕事が「よく生きる研究所」に行き着いたのと同様に、ぼくの関心も「生きる」ということに行き着いたことを、この本を読みながら興味深く感じたのである(ブログ「「一般市民→地域→組織→個人」への関心。- 「テーマ」をとことん追い求めていると、つぎのテーマが現れる。」)。

 

そのような「生きる」ということについて、いろいろと大切なことが書かれている本書のなかで、<問いを生きる>ということが挙げられている。

コーチングのエッセンスは「問い」であり、「問いのパワー」をだれよりも知る榎本英剛は、会社を辞めて留学したとき、コーチとして独立したとき、会社を立ち上げてその後経営から身をひくとき、さらにスコットランドに移住するときなどの転機において、「人生のステージが変わる時、そこには必ず問いがあった」と書いている。

そして、<大きな問い>をもつことを恐れず、「答え重視の生き方」から「問い重視の生き方」をすすめている。

 

…たとえば、「自分は何者か」、あるいは「自分は何のために生きるのか」といった、自分にとって大事だけれどもすぐには答えが出ないような問いを問い続けることこそ、生きることにほかならない。そんなふうに思うのです。

榎本英剛『本当の自分を生きるー人生の新しい可能性をひらく8つのメッセージ』春秋社、2017年

 

ぼくも、そう思う。

だから、この本自体も生き方の「答え」なのではなく、ぼくたち一人一人が、<問いを生きる>ということのなかに「本当の自分」を実現させてゆくことの方向へと、ぼくたちを押し出してしまうところに、この本の凛としたたたずまいがある。