香港で、香港の「広さ」をかんがえる。- 香港は「広い」、香港は「小さい」。 / by Jun Nakajima

香港に初めて来られた方が、「香港は思っていたよりも広い」と語る。

香港に長く住んでいると、ときに、「香港は小さいなぁ/狭いなぁ」という感覚が生まれることがある。

感覚は主観的かつ相対的なものだけれども、旅行ならまだしも、実際に住んでいくときには、主観的だからこそ、いっそう気をつけておきたいところでもある。

 

香港は「香港島」「九龍」「新界」の三つの地域に分けられている。

香港の総面積は「1106平方キロメートル」(香港島:81平方キロメートル、九龍:47平方キロメートル、新界:978平方キロメートル)であり(2014年10月現在)、香港全体で「東京都の半分ほどの広さ」になるという(『香港を知るための60章』明石書店)。

世界史の教科書でも出てくるように、1842年の南京条約で「香港島」がイギリスに割譲されるのだけれど、九龍と新界が編入されるまでには歴史のページをさらに繰ってゆくことになる。

九龍と新界の広さを考慮すると、最初に割譲された「香港島」は、現在の香港(香港特別行政区)の広さから見れば、わずかな地域であった。

その後、九龍がイギリス領に編入されたのは1860年、さらに現在の香港の面積の大部分を占める「新界」を租借したのが、1898年のことである。

このような歴史もあってか、香港は、それぞれの地域によって異なる風景を見せている。

 

中国本土の深センから香港に入り、電車やバスに乗って、この「新界」を通りぬけてくると、「香港は思っていたよりも広い」と感じることがある。

風景も、「百万ドルの夜景」の香港ではなく、多くが緑に覆われていたりする。

逆に、香港へ飛行機で入り、「百万ドルの夜景」の舞台である香港のビクトリア湾周辺に住み、そこでどっぷりと入って生活していると、「香港は小さいなぁ/狭いなぁ」と感じることがある。

どこの風景を見、どこに暮らし、どこを生活範囲とするかで、「香港」の見え方が異なる。

当たり前のことではあるけれども、実際に、香港に住んでいると、じぶんの感覚と見方がときに<凝固>してしまうことがある。

だから、香港の外から来る人たちの感覚や感想は、ときに、(ぼくを含め)香港に長く住む人たちの感覚や味方を<溶解>し、新鮮な風をおくりこんでくれるのである。

 

それでも、「香港」に長く住んでいると、やはり香港の「サイズは小さい」と思ったりする。

でもだからといって「つまらない」のではなく、<なんでもある香港>とも言えるのである。

そして、この、<サイズが小さい香港>と<なんでもある香港>の組み合わせは、圧倒的な「便利さ」を、ここ香港につくりだしてもいる。

さらには、<なんでもある香港>は、長く住んでいても、すべてを行きつくせないほどの「なんでも」に充ちてもいる。

香港12年目のぼくだって、行きつくせていない。

 

このような「香港で生きる経験」をつんで、ぼくは、電子書籍『香港でよりよく生きていくための52のこと』の「17番目のこと」として、「17 「香港のサイズ」を活用する。」と書くことになる。

これだって、当たり前のことと言えば当たり前のことである。

けれども、香港で実際に長く住んでいると、「香港は小さいなぁ」とかつぶやいたり、見方が小さくなってしまうから、「「香港のサイズ」を活用する。」視点は、香港でよりよく生きるために「とても大切なこと」だと、ぼくは思う。

住んでみて直面することがあり、そこで生きていくなかで、じぶんの納得する仕方で気づくことがあったりする。

 

香港に住み始めて、12回目の夏を過ごしながら、ぼくはそんなことを考える。

香港の「新界」が清朝からイギリスに租借されたのが1898年で、それから1997年に中国に返還されることになったのだけれど、1898年から今に至るまでは約120年。

ぼくは、その約10分の1もの時間を、ここ香港で過ごしたことになる。

中国に返還されてからの時間では、ぼくは、その半分以上を、ここ香港で過ごしている。

見方によっては、それはとても不思議な感覚を、ぼくに与える。