香港の「トイレ事情」に、変遷を見る。- 変わりつづける香港。 / by Jun Nakajima

香港に住んで12年になろうとしている。

香港に来るまえに住んでいた東ティモールを去って、香港に来たのは2007年。今年2019年で、十二支が一巡したことになる。

12年もいると、その場所の「変遷」を目の当たりにすることができる。

「転がる香港に苔は生えない」(@星野博美)と言われるように、香港はまったく止まることなく、転がり続けている。それも、転がるスピードが半端ではない。だから、「変遷」もいろいろである。


変わった事情のひとつに、「トイレ事情」がある。

世界のいろいろな場所の「トイレ事情」はそれだけで大きなトピックとなるけれど、ぼくが来た頃の香港は、また違った「事情」を有していた。

香港に来るまえに住んでいた西アフリカのシエラレオネと東ティモールは比較対象としにくいので、さらにその前に住んだり学んだり仕事をしていた「東京」と比べると、その「事情」があぶりだされる。


ひとつには、(中小規模の)ショッピング・センターのようなところでのトイレは「テナント用」であることである。つまり、トイレは、その場所に入っている店舗やレストラン用として、店舗やレストランを利用する人たち限定の施設である。

だから、例えば、CD・DVDを購入しようとして選んでいる最中にトイレに行きたくなったら、カウンターに行って「鍵」を借りることになる。男性用/女性用トイレのマークが大きく描かれた鍵を借り、トイレに行き、またカウンターに戻って鍵を返すことになる。

「変遷」と言えば、大きなショッピング・モールなどが増えて、だれでも、いつでも利用できるトイレが増えたことである。今でも「テナント用」のところもあるのだけれど、「いざ」というときに行けるトイレが増えたことは確かだ。

なお、テナント用のトイレも、(いくつかの場所で)「変遷」を見せた。鍵についている「男性用/女性用トイレのマーク」のキーホルダーが大きくなった(ところがある)。キーホルダーが小さいと、ポケットに入れたり、トイレに置きっ放しで、お店に返すのを忘れがちだからである。


ふたつめには、香港の電車(MTR)の駅構内(改札内)で、トイレ施設がある駅がとても少なかったことである。

東京では駅構内でトイレを利用することが多かったぼくにとっては、最初はなかなか不便であった。

なお、厳密には、駅の駅員さんに頼めば、(たぶん)駅員さんなどが使用する(鍵のかかった)トイレを使わせてもらうことができる。ぼくもいくどかお願いしたことがあった。でも、これはなかなか不便である。

でも、こんなところにも「変遷」が見られる。

MTRの、より多くの駅に「公共トイレ(public toilets)」の施設が設置されてきている。今回、このブログを書こうと思ったのも、この「変遷」を目にしたからでもある。

なお、MTRのホームページには、どの駅に公共トイレがあり、さらに、トイレのない駅では「最寄りの公共トイレへの距離」が明記されている。


みっつめには、香港のトイレの多くには、管理人の方が常在していて、常時きれいに保とうとしてくれている。このことを書いておかないといけない。

東京には「なかった」ものが、香港に「ある」。

ひとつめとふたつめのことと同じに、このみっつめにも「事情」がいろいろとあるのだろうけれども、いつもながらに、頭が下がる思いだ。

だから、トイレを使用したあとには、機会があれば、「ありがとうございます」の言葉を、ぼくは広東語で伝えるようにしている。


なお、「東京」のトイレのあり方をデフォルトとして書いているわけではない。ただ、東京(関東圏)にふつうに暮らしてから、香港に来て、「あるものがない」と思いつつ、でも、ときに不便さを感じ、「あった」ということに感謝したのものである。

そして、香港に長く住んでいると、またその事情が「ふつう」になってくる。でも、時間的な変遷のなかで、それもいろいろと変わってくるものである。便利になって、ありがたく感じることもあるし、不便であった過去をなつかしく思うこともある。

それにしても、香港は、変わりつづけている。変わることのなかに、香港がある。