香港で、東ティモールのコーヒーを見つけて。- 東ティモールコーヒーの香りと味の記憶と点火された思考。 / by Jun Nakajima


中秋節と中秋節翌日が過ぎたけれど、香港の街はまだその余韻を残しながら、活気と喧騒の中にあるように見える。

コーヒーを飲もうと、Starbucksのプレミア店「Starbucks Reserve」のバーに腰掛ける。

「さて何を飲もうか」と、バーのカウンターに並べられた、コーヒー豆が入った透明のボトルに眼を向けると、「East Timor」の文字が眼に入ってくる。

「East Timor」の文字の下には「Peaberry」と書かれている。

小さな丸豆である。

コーヒーのチェリーを採取し、コーヒーを精製していると、その中に若干、Peaberryが混じっているのを見つけることができる。

量的にはたくさんあるものではない。

「East Timor Peaberry」を、Starbucksのプレミア店が扱っている。

 

Starbucksが東ティモール産のコーヒーを販売していたことは、以前から知っていた。

「販売していた」と過去形で書いたのは、13年程前に、オーストラリアのシドニーにあるStarbucksで目にしてから、見ることがなかったからだ。

東ティモールに住んでいるときに、休暇を利用して、オーストラリアのパース経由でシドニーに降り立ったときに、Starbucksでたまたま見つけた。

当時から東ティモールで活動していたCooperative Cafe Timor(CCT)というコーヒー生産者組合を経由して、Starbucksにコーヒーが売られていたことは知っていたから、それを実際に目で確かめた形であった。

CCTは医療クリニックのサービスを提供するなどして、地域社会に貢献している。

ところが、当時、精製していたコーヒーの品質にはいろいろと問題を抱えていた。

そのようなことを思い出していると、準備されるコーヒーから、確かに「東ティモールコーヒー」に独特の「香り」が流れてきた。

 

運ばれてきたコーヒーを飲みながら、「East Timor Peaberry」の説明書きを見つけ、それを読んでいたら、案の定、CCTと協働の説明が書かれていた。

ぼくが東ティモールを離れたのが2007年初頭。

企業利益に偏重していたStarbucksを立て直すためにHoward SchultzがCEOに戻ったのが、2008年。

Starbucksが軌道修正してきた影響もあったのだろうと推測しながら、「East Timor Peaberry」コーヒーの香りと味を楽しむ。

 

ぼくが東ティモールで関わってきたレテフォホのコーヒー生産者たちのコーヒーが懐かしくなる。

レテフォホの土地と彼(女)らが生産する高品質のコーヒーに、あらためて、畏れのような念を感じる。

高品質のコーヒーを求める「消費者」の存在は、とても大切だ。

品質に無頓着な消費者が安い価格のコーヒーを求めると、「生産者」はそのようなコーヒーを生産し、やがて価格競争の中で自分たちのコーヒーと生活をつぶしてゆく。

高品質のコーヒーを(慈善ではなく)感謝の現れとして高価格で求めることは、コーヒー生産者たちの生活をつくってゆく。

東ティモールのコーヒーに思わぬところで出会うことで、「East Timor」の名が広がってゆく嬉しさを感じると共に、ぼくは上で書いたようなことをいろいろと考えさせられた。

東ティモールを去ってから10年を経た、ここ香港で。