John & Yoko/Plastic Ono Band(ジョンとヨーコ/プラスティック・オノ・バンド)の名曲のひとつ、「Happy Xmas (War is Over)」。
年の瀬が近くなるにつれ、この曲のメロディ、ジョン・レノンの差し迫ってくる歌声、ヨーコとハーレムコミュニティ合唱団のバックコーラス、それから公式動画に映し出される世界での争いが、ぼくの中にながれてくる。
1971年にリリースされてから、今ではクリスマスソングのスタンダードに数えられ、数々のアーティストたちに歌い継がれている。
この名曲は、ジョン・レノンとヨーコ・オノが1960年代末から展開していた一連の「平和活動」のなかで放たれたことから、クリスマスソングにおさまらない奥行きをつくりだしている。
「クリスマス」というイベントを旗印にして、<すべての人たちにとってのクリスマス>という図式で、メッセージを届けている。
And so this is Xmas (war is over)
For weak and for strong (if you want it)
For rich and poor ones (war is over)
…
And so this is Xmas (war is over)
For black and for white (if you want it)
For yellow and red ones (war is over)
Let’s stop all the fight (now)
John & Yoko/Plastic Ono Band, “Happy Xmas (War is Over)”
人の強さ、裕福さ、人種を超え、<すべての人たち>を、「クリスマス」という出来事のもとにおさめる。
いろいろと<違う>人たちを、<同じ>土台のもとに置くのは「クリスマス」という事象だ。
ここでいう「クリスマス」は、いわゆる宗教的な色彩は(それも包含しながら)そぎおとされたものだと、ぼくは考える。
抽象化して言えば、それは人間のもつ<共同幻想としてのクリスマス>である。
世界での「クリスマス」は、宗教的なものも非宗教的なものも共に含めるような仕方で、毎年やってくる。
歴史家ユバル・ハラリは、「未来の歴史」を見据えるなかで、人間のもつ、この共同幻想に着目している。
そこで語られる共同幻想と同型のものとして、「Happy Xmas(War is Over)」において、<みんなが同じ>土台として立つことになる「クリスマス」は存在している。
この意味の構造において、ヨーコとハーレムコミュニティ合唱団の子供たちが奏でるバックコーラスの「叫び」は、「争いが終わること」の方法としての妥当性をもっている。
戦争や争いを終わらせる力としての「共同幻想」。
ジョン・レノンやヨーコたちがそれだけで争いが終わるとは考えていなかっただろうけれど、じぶんたちの立つ「立ち位置」において、できるだろうことのひとつとして世界に向けられたメッセージである。
それは、<共同幻想>を書き換えるムーブメントのひとつである。
ジョン・レノンやヨーコや合唱団の子供たちはうたう。
戦争は終わる。
あなたが望めば、と。
望めば終わるという論理はストレートでありながら、反対に、「望んでいない」人たちという存在をあぶりだす言葉の装置でもある。
時代の大きな転換において、課される課題は、望まないことを望むことに変換するための行動の想像力と実行力である。