香港で、よく使われる英語表現がある。
しばしば、ビジネスやサービスにおける「書き言葉」として使われる英語表現で、フォーマルな場における通知(アナウンスメント)に使われたりする。
香港に住んでいらっしゃる方、香港に住んでいらっしゃった方は、ぜひ、少しばかり、かんがえてみてほしい/思い出してみてほしい。
どの英語表現だろうか、と。
なお、よく使われる英語表現の「統計数値」があるわけでもなく(少なくとも、ぼくは知らない)、ぼくが10年以上にわたって、ここ香港に住み、仕事をしてきたなかで、よく接してきた英語表現である(今回のこのブログのポイントは、その「正確性」ではありませんので、そこはあらかじめご了承ください)。
香港で、よく使われる英語表現(しばしば「書き言葉」としての英語表現)として、つぎのものが挙げられる。
「Sorry for any inconvenience caused.」
日本語に訳すとすると、「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」である。
なにか、不便や面倒や迷惑をかけるような事態(小さなことから大きなことにいたる事態)を引き起こしたとき、文面の最後に(あるいは通知などの最後に)、この言葉がおかれる。
eメールのやりとりでも、この言葉が使われることがある。
じぶんの「海外生活」をふりかえってみて、香港以外で、ぼくはこの言葉を使ったり、目にした覚えがない。
ニュージーランドでも、西アフリカのシエラレオネでも、東ティモールでも、英語のやりとりにおいて、ぼくはこの表現を使ったことはない(少なくとも使った覚えがない)。
ぼくの体験・経験上のこととして、この英語表現は、「香港」で、よく使われる表現なのである。
この英語表現におけるキーワードのひとつは、「香港」という社会と生活を軸にかんがえると、「convenience」ということであるかと思う。
この英語表現に表出されているのは、「convenience」(便利さ)ということにかけられている、社会や生活のエネルギーである。
香港という社会とそこでの生活は、とにかく、「便利さ」において突出している。
社会システムのさまざまな側面が、この「便利さ」に向けて、構築されてきたようなところがある。
街の構造も、交通機関の作られ方も、政府関連の手続きも、便利なのだ。
そして、この「便利さ」と重なり合いながら、「スピード(迅速さ)」があることで、変わり続け、止まることのない、香港のダイナミズムをつくりだしている。
だから、この「便利さ」を阻害するようなものやことがあったとき、そこに注がれてきたエネルギーが突如にせき止められて、フラストレーションを起こす。
そのフラストレーションをおさえるかのように、「Sorry for any inconvenience caused.」の表現が投げかけられるのだ。
この表現の多用は、「convenience」(便利さ)に注ぎ込まれる社会や人の力の強さを逆に表出しているように、ぼくには見える。
こうして、「Sorry for any inconvenience caused.」の表現は、今日も、そこかしこで、使われているのである。