「月」に呼応する音色。- 「Sleeping At Last」(Ryan O'Neal)の繊細な音楽。 / by Jun Nakajima

例えば「月」に呼応しながら、繊細に音色をつむぐ、音楽家「Sleeping At Last」。

「Sleeping At Last」を音楽と言ってよいのか。「Sleeping At Last」とは実質には、公式サイトが書くように、「シカゴを拠点とする、シンガーソングライターであり、プロデューサーであり、編曲者であるライアン・オニール(Ryan O’Neal)の呼称」である。

2000年初頭頃から、「Sleeping At Last」は、さまざまな「プロジェクト」や「シリーズ」のうちに、美しい音楽を奏でている。

テレビドラマや映画でもながれることがあるのだけれど、その音色と歌声を聴けば、その内的な繊細さや、宇宙や自然との交響などを、そこに感じとることができる。

 

最近は、「月」をモチーフとした音楽も提供し、今回の「July 27, 2018」の皆既月食そのものをタイトルとした楽曲「July 27, 2018: Total Eclipse」をつくっている。

そして、これまでの「月」の企画と同じように、この楽曲のバージョンのひとつは、皆既月食の時間に相当する「103分版」となっている。

楽曲の美しさはもとより、興味深いのは、「月」一般の楽曲ではなく、それぞれの「日」(例えば「July 27, 2018」)の皆既月食などにインスピレーションを得ながら、作曲されていることである。

 

ぼくがそもそも「Sleeping At Last」を知ったのは、2011年頃のことであった。

TEDの企画動画のなかで流れる音楽にどうしようもなく惹きつけられ、それが「Sleeping At Last」の曲であることを、その動画で知ったのであった。

その曲は「Households」という曲で、「Sleeping At Last」の「Yearbook - Collection」という企画アルバムに収められている。

それからというもの、ぼくの生活のなかには、「Sleeping At Last」の音楽がありつづけてきた。

 

ここ香港の夜空にゆっくりと上がってゆく満月を見ながら、ぼくは、楽曲「July 27, 2018: Total Eclipse」を聴く。

その満月の横には、ちょうど数日前に湖底に「水」がある証拠を得たという「火星」が輝いている(なお、「Sleeping At Last」のEP「Atlas: Space 1」には「Mars」という曲が収録されている)。

宮沢賢治が「これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです」(宮沢賢治『注文の多い料理店』序、青空文庫)と書くとき、それがひとつの真実であったように、ライアン・オニールであれば、「これらのわたくしのおと(音)は、みんな宇宙や月あかりからもらってきたのです」とでも語っているかのような、そしてそこにひとつの真実があるような、「Sleeping At Last」の音楽たちである。