「Mind the step」の連鎖する階段をのぼりながら。- 香港「Tai Kwun(大館)」にて。 / by Jun Nakajima

香港のセントラルにある「Tai Kwun(大館)」(旧警察署・監獄などの跡地が改造されてつくられた、歴史遺産とアートの文化的空間・施設)。

2018年にオープンしたばかりの「Tai Kwun(大館)」は、TIME誌2018年9月3日号/10日号の特集「The World’s Greatest Places 2018」(2018年世界の最も素敵な場所)のなかで、「100 Destinations to Experience Right Now」(今体験すべき目的地100)のひとつとして選ばれた文化施設だ。


その「Tai Kwun(大館)」の敷地内に「JC Contemporary」と呼ばれる現代芸術館がある。

このブログの写真は、「JC Contemporary」内の「階段の風景」だ。

「JC Contemporary」の建物に入ると、レセプションが右にあり、展示物を見るためには左前方の階段をのぼってゆくことになる。階段にあがる手前のところにエレベーターもあるけれども、(確か)フロア・1階・2階からなる建物だから、階段へとふつうにひきよせられてゆく。


見てすぐに気づくように、この階段には、「Mind the step」という表示が、階段の一段一段につけられている。

Mind the step。段差に注意。

それぞれの段の奥ゆきが少し長いのだけれど、特段、段差が高いわけではない。


だから、ぼくの「思考」が少しばかり、混乱する。

こんなになんども注意されなくても、大丈夫なんだけれども、と。

いや、訪問者の人たちに向けて、丁寧に丁寧に伝えてくれているのだろうか。そうだ、でも、ここは美術館。コンテンポラリー・アーツだから、これも「エキシビジョン」のひとつだろうか。エキシビジョンとして、なにかを語っているのだろうか。

写真で見るのではなく、実際に、この階段を一段一段、足元に視線をおとしてゆっくりとのぼるとき、「Mind the step」の文字は、いやおうなく、ぼくの眼と思考のなかに入り込んでくる。


思考の少しばかりの混乱がほどかれて、あとで思ったことは、「mindfulness(マインドフルネス)」のこと。意識・注意を「今ここ」の経験に向けること。

メディテーション(瞑想)とともに、ここのところ注目をあつめてきた「mindfulness(マインドフルネス)」。

「Mind the step」の表示は、一瞬一瞬において、一歩一歩、一段一段へと意識・注意を向けさせる。まるでマントラのように頭のなかでひびきながら。

この現代という時代において、ぼくたちの頭のなかは、いろいろな「声」や「ノイズ」でいっぱいである。歩くという行為、階段をただのぼるという行為のあいだにも、いろいろな声やノイズがやってきては、ぼくたちの意識や注意は「今ここ」から離れてしまう。

アーティストの意図があったり、訪問者たちの受け取り方はいろいろだろうけれど、「Mind the step」の表示が連鎖してゆく「JC Contemporary」の階段を思い出しながら、そんなことをぼくは考えている。