「果肉を一層鮮烈にかじること」(見田宗介=真木悠介)。- 「世界」の味わいかた。 /
真木悠介(社会学者の見田宗介の筆名)の、とてもうつくしい著書『旅のノートから』(岩波書店、1994年)に、つぎのようなエピソードがおかれている。
Read More海外をつなぐ「ビデオ通話」のこと。- 手紙とポストカードのノルタルジアとともに。 /
1990年代に、アジアを旅したり、ニュージーランドに住んでいたりしたときには、まだ、ビデオ通話はなかった(方法はあったかもしれないけれど一般的ではなかった)。もちろん国際電話はできたのだけれど、それなりにお金もかかるし、余程の急ぎの件がなければ国際電話はしなかった。
Read More「あたりまえのことというのが曲者なんだよ」(コペル君の叔父さん)。- 縮減された感性をとりもどす。 /
『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)の主人公コペル君(本田潤一)の精神的成長を支えた叔父さん(お母さんの弟)は、コペル君と彼の友人たち(水谷君と北見君)に、つぎのように語りかける。
Read More香港で、「香港のもの」と「香港ではないもの」を求めて。- 「ここというところへ」と「ここではないどこかへ」。 /
香港にいるのだから「香港のもの」を楽しみたい。どこにいても見たり聞いたりできるものではなく、香港だからこそ、見ることができるもの。
Read More香港で、香港の風景の「ミニチュア作品」を見ながら。-「1980年代+クリスマス+香港」の世界へ。 /
香港の繁華街、Causeway Bay(銅鑼灣)にあるTimes Square(時代廣場)の2018年クリスマス企画のひとつ、「Exquisite Christmas at Times Square(時代廣場 微妙聖誕)」。
Read More火星の「音」を聴く。- NASA探査機「InSight」がとらえた「風の音」。 /
先月(2018年11月)の末に、火星に見事に着陸した、NASAの探査機「InSight」(インサイト)。
12月1日、着陸後に探査機「InSight」からひろげられたソーラーパネルを吹き抜ける風による振動を、探査機が探知したようだ。
はじめて聴くことのできる、火星の「音」(Sounds of Mars)。耳で直接に聴く音ではないにしろ、はじめて聴く、火星の「風の音」。
火星の「音」(Sounds of Mars)、「風の音」という文字を目にしながら、ぼくはふと、とてもシンプルなことに気づく。確かに、火星はこれまで、目で<見る>対象であった。探査機がとらえた火星の表情を目で見る(たとえば、探査機「Curiosity」がとらえた火星の地表をきれいな画像で見ることができる)。思えば、<聴く>ということはなかった。
その、火星の「音」を<聴く>という体験を、今回NASAは<共有>してくれている。つまり、一般公開し、ぼくたちは、火星の「風の音」(振動)を聴くことができるのだ。
ここでは、YouTubeへのリンクを貼っておきたい(下記をクリックするとYouTubeにとびます)。
「Sounds of Mars: NASA’s InSight Senses Martian Wind」(by NASA Jet Propulsion Laboratory)
動画を再生する前には「ヘッドホン」を装着しておくことを、おすすめする。NASAは、音のピッチによって3つのバージョンを用意してくれていて、最初のバージョンは、ヘッドフォンがないと聞こえないくらい低いピッチであるからだ。そしてなによりも、より親密に、火星の「風の音」を聴くために。
火星の「風の音」に耳を澄ませていると、想像の世界の扉がひらかれてゆく。この音がなんの音か知らされないままに聴いたとしたら、ただのなんでもない風の音だと思うだろう。けれども、そこに、火星の「風の音」ということが加わると、やはり想像の世界がひらかれる。
想像の世界は、<聴く>ということのなかに、いっそうひろがってゆく。<見る>ということ以上に。
それでも、<見る>ということも加えてみるのも、ひとつの方法である。探査機「Curiosity」がとらえた火星の地表の「パノラマ」は圧巻である。夜空に赤く光る、火星という赤い惑星の地表を、とても鮮明に、ぼくたちは見ることができるのだ。
YouTubeにアップロードされている「Namib Dune(ナミブ砂丘)の360度ビュー」へのリンクを、ここでは挙げておきたい。
「NASA’s Curiosity Mars Rover at Namib Dune (360 view)」(by NASA Jet Propulsion Laboratory)
そこから、もう少しビューをひろげて見ると、いっそう、火星の風景を、ぼくたちは目にすることができる。探査機「Curiosity」の旅路などの解説(英語)も加えられているが、火星の地表の「眺望」(scenic overlook)として、つぎも圧巻である。
「Curiosity at Martian Scenic Overlook」(by NASA Jet Propulsion Laboratory)
この探査機の名前(「Curiosity」)のごとく、NASAのJPLの研究者たちだけでなく、ぼくたちの「好奇心」をどこまでも駆り立ててやまない画像たちである。その好奇心に導かれながら、ぼくたちは、想像の翼をいっぱいにはばたかせることができる。
ところで、宇宙における「音」について、「世界は音」というコンセプトに触れている、社会学者・見田宗介の言葉を以前紹介した。
社会学者の見田宗介は、古代インドのコンセプトであり、ジャズの大御所ベーレント(Joachim-Ernst Berent)の著作のタイトル『世界は音ーナーダ・ブラフマー』(人文書院)にもなったコンセプトに触れながら、つぎのように書いている。
…わたしたちが、じっさいに音を聴くことができるのは、空気や水、大地などという、濃密で敏感な分子たちのひしめきの中だけである。<宇宙は音>というイメージは、わたしたちの意識を宇宙に解き放つとともに、また幾層もの<音>の呼び交わす、奇跡のように祝福された小さな惑星の、限定された空間と時間の内部に呼び戻しもする。
見田宗介『現代日本の感覚と思想』(講談社学術文庫、1995年)
火星という環境の「分子たちのひしめき」のなかで記録され、そしてこの青い小さな惑星で<聴く>ことのできる、火星の「風の音」。
どこまでも好奇心をかきたてる音でありながら、他方で、この地球の「風の音」へと、呼び戻しもする。「奇跡のように祝福された小さな惑星」の自然が奏でる音たち(また、水があり木がありという風景)が、いっそう鮮烈に、ぼくの意識へとのぼってくる。
火星の「風の音」を聴きながら、そこに重層するように、地球の「風の音」を聴く。この耳に直接にとどく「風の音」を感じる。
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